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2016-06-10 00:00
オバマ大統領の広島演説
倉西 雅子
政治学者
事前の報道では、オバマ大統領の広島訪問の際のスピーチは、極めて短いものになるとのことでした。しかしながら実際には、長時間とは言わないまでも、歴史的訪問に相応しく、凡そ17分に及ぶ格調の高い演説に、日本国のみならず、アメリカの人々も聞き入ることとなったのです。
オバマ大統領の広島演説は、原爆投下の歴史的な意味を、人類の文明史を踏まえた壮大な構想の下で問いかける試みであったように思えます。演説の最後は、「未来の中で広島と長崎は、核戦争の夜明けとしてではなく、私たちの道義的な目覚めの始まりとして記憶されるだろう」の一文で締めくくられています。オバマ大統領は、広島や長崎の人々に残酷な運命を強いた原爆投下が、人々に良心の痛みを感じさせ、その眠っていた道徳心を目覚めさせた時に、初めてその尊い犠牲が将来における平和の実現に資すると訴えたのです。日本では、無念の死が後に良き結末を迎えることを“魂が浮かばれる”と表現しますが、原爆の悲劇が人類平和の礎となった時、その犠牲は、決して無駄ではなかったこととなるのです。否、第二次世界大戦で払われた全ての犠牲は、決して無駄にはしない、とする誓いでもあるのでしょう。
そして、この広島演説における道徳の目覚めという言葉は、核の先制使用を是とする国、核を脅迫手段とする国、並びに、密かに核開発を進めている国にとりましては、耳痛いことでしょう。何故ならば、こうした行為を行う国は、残虐さを前にしても心が痛まず、人としての道徳心が欠けている、と暗に批判されているからです。実のところ、オバマ大統領の広島演説は、あたかも教師や聖職者の説教の如く、全世界に向って道徳を説いているのであり、核廃絶への道しるべを人類の精神性のあり方に求められたのです。
同演説では、核廃絶の具体的な道筋が提示されたわけではなく、核なき世界への取り組みは不十分との批判はあります。精神論に逃げたとの見方もあるのでしょうが、その一方で、人類の文明化、人類の進むべき方向として、その倫理的な発展という点を明確に指示したことには、意義があったのではないかと思うのです。暴力志向の諸国に、倫理的発展に背を向けた背徳者としての自覚、つまり、遅ればせながらの道徳の目覚めが生まれることを願わざるを得ないのです。
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