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2016-06-03 00:00
トランプ氏は“対米債権国の日本”を侮るなかれ
田村 秀男
ジャーナリスト
作家の石原慎太郎氏と亀井静香衆院議員は米大統領選で共和党の最有力候補、ドナルド・トランプ氏に対し、「なめたらいかんぜよ」(石原氏)、「米国のエゴがある」(亀井氏)と反発している。亀井氏は「残る政治家人生を賭ける」と言い、いくつかのルートを使ってトランプ陣営に働きかけ、「トランプではなく、花札を持っていつでも会いに行く」と腕まくりする。両氏が問題にしているのは、トランプ氏の在日米軍全額負担要求、日韓の核武装容認や日本製品に対する高関税の主張などだが、国際金融市場関係者が「世界不況を引き起こす」と恐れている発言もある。中央銀行である米連邦準備制度理事会(FRB)にドルを刷らせて、借金つまり国債の返済にまわすというアイデアだ。FRBのイエレン議長がそれを拒否すれば、首をすげかえる、とまでトランプ氏は公言するほどご執心だ。
この案は荒唐無稽だとは切り捨てるわけにいかないし、妙に現実味がある。シカゴ大の故ミルトン・フリードマン教授の弟子、ベン・バーナンキ前FRB議長が提案したことがある「ヘリコプター・マネー」政策に似ているからだ。ヘリマネーとは中央銀行がカネを刷ってヘリから民間に向かってばらまく、というフリードマン教授作の寓話に基づくが、要は財政資金を中央銀行が創出し、供給する。トランプ案は粗野だが、その範疇に入る。FRBは既存の金融政策の枠組みのもとでドルを刷って市場に流通する米国債を大量に買い上げてきた。トランプ案はこの仕組みを曲げて、FRBがドルを刷って国債の償還に踏み切るわけである。となると、政府は債務から解放されるばかりか、新たに発行した国債もFRBが発行するドルで元利払いが行われる。
「トランプ政権」が実際に発足すれば、米国政府は債務を増やさずに国債を発行し、中間所得層以下への減税財源とすることができる。白人中間・貧困層の救済をうたうトランプ候補にとって魅力十分だ。トランプ流ヘリマネー政策で予想されるのは、外国の対米債権国の狙い撃ちだ。米市場で流通する米国債の発行残高をみると、その6割近い6・1兆ドル(約668兆円)を外国当局・国際機関が占める。
国債は通常、税収を担保にしているから投資家に信用されるのだが、「紙幣輪転機を回してあなた方への借金を返す」と言われて「はいそうですか」と受け入れるお人よしがいるだろうか。中国なら、トランプ氏が大統領候補に正式指名されたら、さっさと米国債を売り逃げるだろうが、日本は同盟国として、中国にすぐに同調するのはためらうに違いない。外国の米国債保有は、中国が1・2兆ドル(約131兆円)で世界最大、日本が1・1兆ドル(約120兆円)で次ぐ。日中とも米国債を見限れば、米国債は暴落、株式市場にパニックが広がる。トランプ氏に対し、「債権国日本をなめたらいかんぜよ」となるだけ早く警告するしかない。
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