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2016-04-21 00:00
(連載1)予算前倒しに疑義あり
田村 秀男
ジャーナリスト
3年たった日銀の異次元緩和政策の威力を封殺しているのは誤った財政政策である。財政の何が間違っているのか、どう正すべきか。論より証拠だ。国内総生産(GDP)の増減の推移を追うだけで財政と景気問題の核心をつくことができる。GDPの6割を占める家計消費は個々の主婦たちの行動の集積なのだが、実は政府の財政政策に大きく影響される。主婦の方々の意思は世帯主の給与ばかりでなく、消費税、さらに家電や住宅にかつて適用されたポイント制度など財政上の措置によってかなり左右されるのだ。第2次安倍晋三政権が平成24年12月に発足したあと、25年度の実質GDPは四半期ベースで前年に比べて2~3%成長した。異次元金融緩和に加えて、政府は公共投資を上積みし、さらに前倒しして執行した。26年4月からの消費税率8%への引き上げを控え、家計は増税前の駆け込み消費に励んだ。GDPが鮮やかに回復したのは当然で、まさに消費税増税という嵐の前の「積極財政」がカンフル剤となったのだ。
ところが、政府は増税実施とともに、緊縮財政に転じた。公共投資は急激に落ち込む。増税の嵐にさらされた主婦たちは財布のヒモを締め、勤め人は昼飯をコンビニ弁当に切り替えた。増税の災厄に加えて27年度も緊縮財政が続き、家計は消費を元に戻そうとしない。
異次元金融緩和の方はどうか。円安で輸出関連産業を中心に企業収益は急増し、株高で投資家は潤った。法人税、所得税と消費税の収入は増えた。税収増は財政収支改善の点では結構なことだが、政府は民間から税を巻き上げたまま民間に還元させないと、カネの裏付けが必要な需要を萎縮させる。財務省統計の財政資金対民間収支によると、26年度の一般会計税収は前年度に比べて6兆円余り増えたが、民間には1・1兆円しか支出を増やしていない。27年度も税収増が対民間支出増を4兆~5兆円上回る。通常、金融緩和の景気に対する効き目は公共投資に比べて遅く、9カ月から12カ月かかる。収益が増えても企業は売り上げの先行きを重視するので、おいそれと賃上げには応じず、内部留保だけを積み上げて様子を見る。
増税と緊縮財政がなければ、26年度以降、賃上げ、家計消費回復、GDPの成長という好循環が生まれて、インフレ率は上昇し、「異次元緩和は大成功」という評価になったかもしれないのだ。(つづく)
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