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2016-04-01 00:00
EUとAPECの相違
池尾 愛子
早稲田大学教授
市場経済と民主主義を基本理念とする欧州連合(EU)から来る交流学生が多い授業では、1989年発足のアジア太平洋協力会議(APEC)の話を早めに入れるようにしている。設立メンバーはフィリピン、インドネシア、マレーシア、タイ、シンガポール、ブルネイ、米国、カナダ、オーストラリア、ニュー・ジーランド、韓国、日本の12カ国である。1991年に、中国、香港、台湾(Chinese Taipei)の3つの経済が揃って加盟し、1998年にはベトナムが加わるなどして、現在では21経済がメンバーとなっている。
APECの前史には、太平洋貿易開発会議(PAFTAD、1969年より)、太平洋経済協力会議(PECC、1981年より)の活動が含まれ、欧州統合の動向を意識して、経済人、政策担当者、経済学者達が同地域の連結性(connectivity)を得ようとしてきたといえる。APECの主目標は、「開かれた地域主義」による経済連携をうたいながら、アジア太平洋地域の持続可能な経済成長と繁栄を実現することである。一党支配の国々が含まれ、経済(business and economic cooperation)に集中する点で、APECはEUとは大きく異なっている。これを「アジア・ウェイ(Asia Way)」と評する研究者もいる。
ところで、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)には、EU加盟国もこぞって参加を決めた。AIIBのような国際銀行を提案し、支持者を得られるのは、確かに中国が経済大国になってきているからである。ただ、AIIBを動かしていくには貸金業に長けた人材が必要であり、余裕資金を必要な国や公的機関、民間企業に貸し出し、利子と共に返済してもらわなくてはならない。インフラ融資でも、金額は大きくなっても、事前調査など細かい作業の必要な地道な仕事のはずである。大国になればなるほど、細かなことに配慮する必要が生じており、対処できる人材が要るのではないか。
ひょっとしたら、「中国は今や大国であり、大国として振る舞うべきである」といった議論がなされているのではないか。そして、中国の人々にもその議論の一端の影響が及んでいるのではないか。しかし、インフラ融資でもインフラ建設でも、そうした議論には関係なく、大きく立案しながらも、繰り返しになるが、実際には細かな作業を伴うはずである。「大国意識」が繊細さを欠くことにつながるのなら、大型プロジェクトから綻びが生じて、何か取り返しのつかない事態が引き起こされていくのではないか。
さて、「『EUは冷戦の産物である』と中国で説明しているヨーロッパ人がいる」と聞いたことがある。偽情報なのだろうか、あるいは勘違いがあるのだろうか。それとも、EUもAPECやアジア・ウェイを参照し始めているのであろうか。既に公的に発言している通り、私は招待された時にのみ中国を訪問し、中国の研究者達とは基本的に日本研究を通じて交流をしており、「研究者としての自覚」「研究者としての良心」「研究者のモラル」、そして「研究の自由」の大切さが伝わるようにして接してきている。この点は決して誤解しないでいただきたいのである。
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