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2007-02-19 00:00
米国の経常収支赤字の拡大と今後の課題
村上正泰
日本国際フォーラム研究主幹
世界経済の抱えるリスク要因のひとつとして、拡大する米国の経常収支赤字が挙げられる。米国経済は、ITバブルの崩壊などを経ながらも、90年代後半以降総じて好調を維持しているが、対GDP比で見て6%台半ばという歴史的水準にある経常収支赤字は注意を要する。米国の経常収支については、かねてよりサステイナビリティをめぐってさまざまな議論が行われてきており、大幅な調整に伴って米ドルの急落が不可避であるとの指摘がこれまでも数多くなされてきた。にもかかわらず、米ドルは実質実効レートで見ると少しばかり下落しているものの、比較的安定した推移を続けており、今までのところ米ドルへの信任が揺らいでいるとは言えない状況にある。しかしながら、こうした巨大な不均衡がいつまでも継続するという保障もなく、リスクが顕在化する前に手を打つことが望ましいことは言うまでもない。
米国の経常収支赤字については、概ね米国の国内要因、すなわち貯蓄過少というISバランスによって説明される。しかしながら、同時に、バーナンキ議長が米国の経常収支赤字拡大の主因を「global saving glut」に求めているように、米国の経常収支赤字の対極にある新興市場国の経常収支黒字にも注目が必要である。すなわち、アジアを始めとする新興市場国がドル建て外貨準備を蓄積し、通貨危機以前の資本流入国から資本流出国に転じることにより、米国への資本流入を支え、米ドル高と米国の経常収支赤字の拡大をもらたしているという側面である。新興市場国の貯蓄超過によって米国の経常収支赤字がファイナンスされ、マーケットの安定性も保たれているのである。
経常収支の要因分析については、我が国においてもかつて激しい論争が行われたが、非常に複雑な側面がある。というのも、経常収支は決してひとつの関係式で決定されるものではないからである。そこには、マクロバランスはもとより、実物市場、資産市場、貿易関係、為替レートなどの複数の均衡条件式が同時決定的に関係しており、一方的な因果関係だけで説明し得るようなものではない。
新興市場国が資本流入国から資本流出国に転じる前から米国の経常収支赤字の問題があったことからすれば、構造的な要因として米国における貯蓄過少が最重要であることに変わりはなく、米国内のマクロバランスの是正が不可欠である。それはひとつの重要なポイントではあるが、決してそれだけで不均衡が円滑に解決される訳ではなく、新興市場国側の動きも重要な意味を持ってくる。米国の経常収支赤字を前にして、しばしば米国の脆弱性ばかりを指摘する議論があり、それは一面の真実をついてはいるけれども、だからと言って米国以外の各国が何もしなくていいという問題ではない。こうした観点に立って、以前より「第二のプラザ合意」を求める議論があるが、いかなる形かはともかくとして、新興市場国を含めた政策協調が不可欠となっている。問題は、その必要性が広く認識されていながらも、不均衡を生んでいる双方ともなかなか具体的な行動に結び付けることができないでいることである。
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