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2016-02-01 00:00
“殺人AIロボット”の出現と戦時国際法
倉西 雅子
政治学者
今年のダボス会議では、科学者達が、殺人AIロボットの開発を阻止すべく訴えたと報じられております。“殺人AIロボット”は、人工知能が搭載された自律型ロボットであり、外部からのコントロールではなく、自らの判断で戦闘を行う能力を備えたハイテク兵器です。
“殺人AIロボット”の出現は、戦時国際法と無縁ではありません。“殺人AIロボット”が戦場に投入されますと、兵士と民間人の識別が正確にできず、民間人まで殺害されてしまう恐れがあり、開発反対の最大の根拠となっております。この無慈悲さが“殺人AIロボット”と称される理由でもあり、自律型兵器は、戦時国際法が定める民間人保護を無視してしまう可能性が高いのです。しかも、人間ではありませんので、誰が戦争法違反の責任と罪を負うのか、といった問題も生じます。この側面は、自律型兵器の使用を律する新たな戦時国際法を作成する必要性をも示唆しているかもしれません。
その一方で、自律型兵器が開発された背景にも、今日、戦時国際法が直面している現状が見え隠れしています。何故ならば、タリバン等のイスラム過激派との地上戦の苦い経験が、この兵器の開発を加速化させたからです。近代以降の戦時国際法では、人道精神の高まりから、投降兵士の殺害や必要以上に苦痛を与える兵器の使用等は禁止し、敵であれ、可能な限り相手の生命と人としての尊厳を守る方向を目指して歩んできました。しかしながら、従来の戦時国際法は、イスラム過激派との戦では無意味となり、タリバンに捕縛されたアメリカ兵は、“見せしめ”のために、言葉で表現するのも憚られるほど残酷極まりない方法で殺害されました。アメリカが、ISとの地上戦に二の足を踏む背景には、“戦時国際法空白地帯”の出現があり、それが自律型兵器を開発する動機となっているのです。
中東のみならず、法の支配を否定する中国は、将来、万が一にも戦争が起きた場合、戦時国際法を無視する可能性が高く、“戦時国際法空白地帯”の問題は切実です。自律型武器の出現は、無差別殺人機化のリスクのみならず、人間存在を根底から否定するような戦場での残虐行為を如何にしてなくすのか、という問題をも問うているのではないでしょうか。
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