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2016-01-27 00:00
(連載2)ロールス・ロイス社国有化をめぐる国家と軍事産業の関係
河村 洋
外交評論家
しかしロールス・ロイス社と上記の日本企業はともに目覚ましい技術開発によって高い評価を得ている。ロールス・ロイスの場合、そのブランドと高い技術が船舶および航空宇宙エンジンから原子炉の部門まで活かされている。イギリス製の兵器は言うにおよばず、外国製に最新鋭兵器にもロールス・ロイス製のエンジンが利用されている。例えばアメリカ海軍のズムウォルト級駆逐艦は同社製のガス・タービンで航行している。また、韓国の国産ステルス戦闘機KFXの一部にもユーロファイター・タイフーンと同じロールス・ロイス製のエンジンが備え付けられることになっている。他方で三菱製のステルス戦闘機ATDX(先進技術実証機)は世界的な注目を集めている。非常に驚くべきことに、三菱製戦闘機にエンジンを提供しているIHIは、昨年3月に同サイズでは推力重量比と燃費効率が欧米製のものを上回るHSE(ハイパワー・ストリーム・エンジン)の開発に成功し、日本の念願である国産戦闘機F3の開発にはずみをつけている。
そうした一方で小規模な会社はグローバル化が進んだ世界市場の荒波に対して脆弱である。また、こうした企業の質の高い頭脳は海外どころか敵対的な勢力の手先には格好の買収の対象である。市場機能は時には非常に無慈悲であり、国益や公益に一切の考慮を払わないこともある。しかし国家が戦略的な産業を国有化すべきなのだろうか?
1985年から1986年にかけてのウエストランド事件ではマーガレット・サッチャー首相(当時)が市場原理に基づいてアメリカのシコルスキー社によるウエストランド・ヘリコプター社の合併を認めたのに対し、マイケル・ヘーゼルタイン国防相(当時)が同社の所有権をヨーロッパの枠内に収めようと主張した。周知の通りサッチャー側が閣内構想に勝利し、ヘーゼルタイン氏は辞任となった。
冷戦期にはボーダーレス経済と言ってもほとんど西側同盟の中でのことであった。今日では企業はそうした政治的な境界を超えて活動する。例えば中国のハイアール・グループは三洋やジェネラル・エレクトリックといった西側企業の洗濯機部門を買収している。しかし軍事産業は家電産業とは違う。軍事企業が一度でも本国から外国の手に渡ってしまえば、それがたとえ同盟国や友好国の企業による買収であっても、買い取られた企業が敵国に売り渡される危険を秘めている。こうした観点からすればキャメロン政権がロールス・ロイスを外国企業の買収から何としても守ろうとするのは当然である。特に同社の原子力部門はトライデント戦略ミサイル原潜とも深く関わっているだけに、イギリスの国家安全保障のうえで細心の注意が必要な問題である。(つづく)
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