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2016-01-22 00:00
一寸先は闇の世界情勢
川上 高司
拓殖大学教授
新年早々不穏な動きが世界を覆った。サウジアラビアでは4人のシーア派と45人のアルカイダのメンバーの死刑を執行、同国で1980年以来の大規模な刑の執行となった。だが、この4人のシーア派には同国内のシーア派の間でも人望の厚い聖職者のシェイキ・ニムル師が含まれていたことから、イランやイラク、レバノンでシーア派の反発を引き起こした。イランではテヘランのサウジ大使館が襲撃され、イラクでは1990年以来閉鎖されていたサウジ大使館が新年早々に再開したものの再び閉鎖された。イラクのシーア派有力者のサドル師はサウジへの抵抗を呼びかけ、レバノンのヒズボラも「ニムル師の死刑は状況を悪化させる」と不穏な予告を発した。一方でサウジアラビアはイランとの国交を断絶、バーレーンやスーダンなど一部のスンニ派国家も同調したため、スンニ派とシーア派間の緊張が高まっている。
最も不安にかられているのは実はアメリカである。昨年末にシリア和平会議にイランとサウジアラビアの同席を実現しシリア内戦終結へ向けて前進したのもつかの間、今回の件でイランとサウジアラビアの関係が悪化、今月末に予定されているシリア和平会議が最悪の場合は決裂しシリアの和平が遠のくではないかと危惧している。
アメリカや周辺国との関係を悪化させてまでサウジアラビアはなぜ刑を執行したのか。それはサウジの国内事情も大きく作用している。サウジアラビアは原油価格の下落で財政が悪化している。アラブの春の時には、潤沢な資金で交付金を国民にばらまいて民主化運動を押さえ込んだ。その潤沢な資金が今では枯渇し今後は逆に国民には厳しい政策を採れば国民の不満は一気に高まる。そこに過激派がつけ込んで国内政治を揺さぶる可能性は十分すぎるほど高い。今回の刑の執行でサウジの中での過激派の活動への弾圧と警告を知らしめる目的があったことは容易に推測がつく。一方のシーア派二ドル師は、2012年のアラブの春の時にサウジ国内で民主化を求めて王政に反対を主張した穏健な人物である。彼を中心に再び民主化運動が盛り上がると、イランが支持を表明していただけに、サウジ政府としてはイランの影響力が国内で強まることは見逃せない事態である。さらに昨年アメリカとイランが核問題で合意し宥和路線を両国が歩み、さらにシリア問題でもイランの影響力が強くなりつつあることにもサウジ政府は不満を持っていた。アメリカの顔色をうかがう気持ちはもはや現国王にはないのかもしれない。
サウジアラビアにとってイランを始めとするシーア派の反発もアメリカの危惧も予測の範囲内だろう。それでも強硬路線を採る新国王とどう渡り合うのか、オバマ外交にとってまたひとつ大きな課題が現れた。
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