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2016-01-13 00:00
中国は何故北朝鮮に“核の傘”を提供しなかったのか?
倉西 雅子
政治学者
先日、北朝鮮は、突如、“水爆実験”を敢行し、“核の脅威”を見せつけました。本物の“水爆”であったのかどうかは疑問なところですが、国際社会は、核兵器開発に邁進している北朝鮮に対して厳しい制裁を以って臨もうとしています。北朝鮮の水爆実験が報じられますと、ネット上では、“中国政府が日本国の核保有を警戒している”とする情報が散見されるようになりました。また、韓国与党の幹部からも、韓国の核保有に前向きな発言があったと報じられています。相次ぐ核保有への言及は、北朝鮮の核保有が、NPT体制崩壊の引き金になりかねないことをも示してもいます。
NPTは欠陥だらけの条約であり、その最大の欠陥の一つは、非核保有国の安全が完全には保障されていないことです。核保有国による核の先制攻撃も然ることながら、今般の北朝鮮による“水爆実験”は、NPT体制においては、卑怯な“抜け駆け”を行い、核保有の既成事実化に成功した無法国家だけが、圧倒的な破壊力を有する核で他国を脅す能力を持つという最悪のシナリオを予測させています。そして、非核保有国の被爆リスクを軽減する一つの方法が、核保有国による“核の傘”の提供であることを考慮しますと、一つの疑問が湧いてきます。それは、何故、中国は、北朝鮮に“核の傘”を提供しなかったのか、という疑問です。
日本国は、同盟国であるアメリカが提供する“核の傘”の下にあり、政府も国民も、アメリカの“核の傘”の抑止力によって核攻撃から守られていると信じています。実際に、これまでソ連邦からも中国からも核攻撃を受けなかったのは、“核の傘”の抑止力が働いたからなのでしょう。核保有国との軍事同盟は、同時に“核の傘”による安全保障の確保を意味するのです。その一方で、北朝鮮が、秘密裏に核開発を試みた背景には、中国の“核の傘”の不在が推測されます。中朝間では、1961年に中朝友好協力相互援助条約が締結され、ソ連邦ともソ朝友好協力相互援助条約を締結していましたので、北朝鮮は、本来、二重の“核の傘”で護られる立場にあったはずです。冷戦終結後の1996年にソ連邦との同盟は消滅しますが、中国との軍事同盟関係は、今日まで維持されています(少なくとも2021年までは有効…)。仮に、中国が、北朝鮮に対して“核の傘”の提供を約束していれば、実のところ、1994年の米朝合意の原因となった北朝鮮の核開発問題もなかったかもしれないのです。
NPTには、核保有国による“核の傘”の提供に関する条項はないものの、事実上、核保有国との軍事同盟は、核不拡散に大いに貢献していたはずです。この側面からしますと、同盟国でありながら中国が北朝鮮に“核の傘”を提供しなかったのは、間接的ながら核拡散を許す行為とも受け取れるのです。今回の実験で中朝関係のさらなる冷え込みが予測されていますが、国際社会は、NTP体制の欠陥と脆弱性の問題に、真剣に取り組むべき時期が来ているのではないでしょうか。
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