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2007-02-05 00:00
超円安の進行とG7の課題
村上正泰
日本国際フォーラム研究主幹
今週末に開催されるG7財務大臣・中央銀行総裁会議を前にして、円安に対する関心が高まっている。たとえば議長国ドイツのシュタインブリック財務相は「円相場は我々の協議の一部になるだろう」と発言している。これに対して、我が国の当局筋は「議題に取りあげることはない」と繰り返し否定している。しかしながら、米国のポールソン財務長官は、欧州勢とは一定の距離を置きつつも、「日本の通貨を非常に、非常に注意深く見ている」と述べており、円相場が各国の関心を集めていることは間違いなさそうである。
昨年の円相場を見ると、ドル円相場は比較的安定的に推移しており、ドル円相場ばかりに注目が集まる我が国においては一般的にはあまり認識されていないかもしれないが、対ユーロを中心として大幅に円安が進行している。最近は対ドルでもじり安傾向にあり、実質実効レートで見るとプラザ合意以来という歴史的な超円安水準となっている。こうした円安の背景にあるのは、超低金利にある我が国と諸外国との間の金利差である。我が国経済の回復基調が続いているとはいえ、個人消費を中心に力強さに欠けており、今後利上げが行われるとしてもきわめて緩やかな形にならざるを得ない。こうした状況にあって円安が進行するのはある意味で自然なことであり、人民元問題とは全く異なった次元の問題である。
今回の超円安の進行において主役として指摘されているのが、いわゆる「円キャリー・トレード」である。具体的な形態はさまざまであるが、低金利の円で資金調達し、高金利の外貨投資を行うというものであり、一部の市場関係者によれば全体で40兆円程度の規模に達しているとも言われている。ここで懸念すべきは、円相場の水準それ自体というよりも、こうした巨額の円売りポジションが急激にアンワインドされた場合のリスクなのではないだろうか。
マーケットのセンチメントは何かのきっかけで突然に変化するものであり、損切りなどを伴いながら全体がその方向に傾けば、一気に相場が動くのである。我々は、1998年秋に、それまでキャリー・トレードを伴いながら大幅な円安水準となっていた為替相場が、ロシアの債務危機やLTCMの経営破綻などを受けてヘッジファンドなどが一気に手じまいを始め、3日間で20円もドル円相場が円高に振れたのを目撃している。もちろん現在の状況には1998年とは異なる点も多いが、マーケットというものの性格をよくあらわしている。
こうした巻き戻しは些細な出来事によっても起こりうるものである。米国経済について、住宅バブル崩壊の影響がどの程度のものになるのか不透明であり、景気減速が予想以上のものにならないとも限らない。また構造的にいえば、米国の経常収支不均衡の問題があり、ドル相場に下落圧力がかかる可能性もある。こうした中にあって、バブル的とも言える「円キャリー・トレード」がいずれかのタイミングで大幅反転する可能性は(超円安の継続もしくはその秩序だった修正の可能性と同様に)否定できず、その時には国際金融システムの安定に悪影響を及ぼすリスクもある。言うまでもなく危機が起きなければそれに越したことはないが、こうしたリスクを十分念頭に置いた議論を行っていく必要があろう。
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