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2015-08-13 00:00
翁長説得は八百屋で鯛を求めるに等しい
杉浦 正章
政治評論家
「嘉手納沖合に墜落しました。基地のそばに住んでいる人は大変なことだ」と沖縄県知事・翁長雄志は官房長官・菅義偉との会談で切り出したが、米軍ヘリの墜落はまるで反対側のうるま市東側の海上。嘉手納基地近辺住民には何の影響もない。墜落の事実関係まで鬼の首を取ったかのように誤って利用しようとする。翁長の姿勢はいかんともし難い。事程左様に会談は、公式の会談では成り立ち得ない「翁長の感情論」が目立った。これでは先が見えている。米軍ヘリの墜落はむしろ普天間基地移転での危険性除去の必要性を改めて確認するものに他ならない。住宅密集地の基地は、いつ墜落事故が起きるか知れない危険性と常時隣り合わせしている。その普天間移転に翁長が反対するのは、「普天間周辺の墜落事故での住民の犠牲を背景に、基地反対闘争を盛り上げようとしている」という“うがった見方”を裏付けてしまうことになるのではないか。菅が普天間移転について「基地の世界一危険な状況除去が原点である」と述べたのは、しごくもっともであろう。
これに対して翁長は「それが原点ではない。普天間の住民がいない間に強制収容された基地が原点だ」と根拠のない感情論を展開した。さらに続けて「自分が奪った基地が世界一危険だから、老朽化したからもっとお前たち出せと。こんな理不尽なことはない」と述べた。一連の発言は真面目に論理的に話をしようとしている菅に、翁長が反対闘争を意識、扇動するための感情論で対応していることが明白だ。「もっとお前たち出せ」という言葉は、県民の間に被害者意識を拡大することを狙ったものであり、事の本質をねじ曲げるものに他ならない。移転と同時に普天間基地と嘉手納以南の米軍基地の7割が返還され、海兵隊員の約半分9000人がグアムなどに移転するのである。沖縄の基地負担はまぎれもなく軽減されるのであり、これが「もっと出せ」となる発想自体がおかしい。
翁長は私的諮問委員会に前知事・仲井真弘多の埋め立て承認を「法的な瑕疵(かし)がある」と決めつけさせ、これを根拠に発言しているのだろうが、中央政界でも最近はやらない「お手盛り審議会」の結論には説得力がない。自分の都合で集めた第三者委員会に公正中立性があるとは言えまい。前沖縄県知事・仲井眞弘多時代に、埋め立て承認を理論づけた県庁職員をないがしろにするものでもある。19年前の日米移転合意、16年前の知事の同意に基づく閣議決定、1913年の仲井真の移転承認に至るまで、忍耐強く地元の説得を続けてきた自民党政権の、移設工事本格化には何の瑕疵(かし)も見られない。現に翁長自身がかつては移転に賛成をしていたではないか。
会談の結果について菅は「出発点が違うから距離はあるなという感じであった」と述べているが、菅ほどの人物が結果を読めずに会談に臨むわけがない。政府の普天間移設とこれを阻止する翁長の構図は変わりようがないのであって、会談はいわば政府が国民を意識し、翁長が県民の反対勢力だけを意識する「儀式」のようなものであろう。しょせんは物別れが目に見えているのである。また審議会の答申を盾にとって翁長は8月中に埋め立て承認を取り消す方針であったようだが、政府は安保法制の参院審議が佳境に入る時期に取り消しをされては、国会審議に及ぼす影響が甚大とみて、「集中協議」の場を設定したに過ぎまい。翁長は「沖縄の『飢餓感』を理解できなければ、個別の問題解決は難しい」と、今度は自己陶酔型の感情論を展開したが、中国が尖閣列島はおろか沖縄本島まで狙いを付けている現状をどう見るのか。中国支配下においては「100倍1000倍の飢餓感」が県民を襲うことに考えが及ばないのか。指導者なら、自己保全のために県民を扇動することはやめて、激動する極東情勢の中で沖縄の地政学的な立ち位置を熟慮するべきであろう。しかしこればかりは八百屋で「鯛をくれ」と言うようなものだ。
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