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2007-01-26 00:00
イラクの混乱と国際社会の責任
西川 恵
ジャーナリスト
イラクの混乱を見るにつけ、ここまでならずにすんだはずだと思う。1980年代初頭からイラクを見てきたが、豊富な石油資源、世俗主義、女性の社会進出と、イラクはアラブ諸国の中でも豊かで安定した国になる条件を備えていた。それがいま見る影もないのには、国際社会、特に米欧とアラブ諸国の責任も重い。
年末に処刑されたイラクのフセイン元大統領が、指導者として最も責任が重いのは疑いを入れない。対イラン侵攻によるイラン・イラク戦争(80年~88年)、湾岸危機と戦争(90年~91年)、そしてイラク戦争(03年)と、元大統領は重大な判断ミスを繰り返した。ただ判断ミスを誘う誤ったシグナルを国際社会が出してきたことも指摘しなければならない。
イラン・イラク戦争中、アラブ諸国は反イランの立場からイラクを全面支援し、元大統領の言うがまま財政支援をした。米欧も同様だった。米国はイラン軍部隊の衛星情報などをイラクに提供し、フランスは戦闘爆撃機や、それに搭載する対艦ミサイル、対地ミサイルを提供し続けた。フランスが戦闘爆撃機をイラクに貸与したとき、日本などは「戦争の火に油を注ぐ」と繰り返し懸念を表明し、実際にそれはペルシア湾での相互のタンカー攻撃へエスカレートた。対イラン戦争に事実上勝利した元大統領は、「西側やアラブ諸国は自分の言うなり」と増長した。そして集積した膨大な軍事力をクウェートに向け、湾岸危機を引き起こした。
1980年代は甘やかし、90年代は封じ込め。そしてイラク戦争の鉄槌。四半世紀の軌跡をたどるなら、「お前が招いたこと」と元大統領にすべて責任転嫁できないものがある。
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