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2015-07-13 00:00
世界遺産登録の教訓:相手国の策略を見抜く
倉西 雅子
政治学者
ユネスコの世界遺産制度とは、人類史的に価値のある遺産を保護し、未来の人類に継承してゆくためにこそ設けられている制度です。しかしながら、先日、ドイツのボンで開かれた世界遺産委員会での登録手続きで観られた光景は、この崇高な精神とは著しくかけ離れたものでした。日本国政府は、今年の委員会での「明治日本の産業革命遺産」の登録の実現をめざし、内外で登録推進活動を進めてきました。ところが、韓国は、登録対象の遺産の幾つかでは朝鮮半島出身者の”強制労働”があったとして登録反対を表明し(実際には、どの国でも実施されていた有給の戦時徴用であり、期間も1年足らず…)、国際的な宣伝活動を展開します。
6月末には、日韓外相会談で、相互の遺産登録の協力、ならびに、文面において合意に達するものの、実際に、委員会での審査手続きが開始されますと、先の合意を一方的に反故にし、再度”強制労働”を主張しはじめるのです。この結果、韓国が、日本の支持も受けて自国の遺産登録を先に決める一方で、日本国の審議は翌日に持ち越され、議長国ドイツの計らいで全会一致での登録決定後、日韓がそれぞれ陳述書を読み上げる進行となりました。この日本側の陳述書、”強制労働”という言葉は使われていないものの、かなり曖昧であるため、韓国国内では、「日本国が”強制労働”を認めた」と大々的に報じられたそうです。
この一連の経緯からしますと、韓国の目的が、国際舞台における日本国による”強制労働”を弾みに、徴用工問題で日本国に対して賠償責任を負わせることにあることは明らかです(徴用工の未払い賃金については、日韓請求権協定で決着済…)。言い換えますと、世界遺産登録は、韓国が自国の政治的目的を達成するために利用されたのであり、韓国側の登録反対の強硬なポーズや、日本国の油断を誘う一時的合意は、反対撤回と引き換えに、日本国政府の言質を取るための作戦であったと推測されるのです。
そして、この一件は、幾つかの疑問点を残すことにもなりました。それは、何故、日本の遺産の登録について、審議過程において韓国に陳述機会が与えられたのか、という点です。両国とも、今年は委員会のメンバーではありますが、他国の遺産の登録に対して反対する国には、無条件に陳述機会が与えられるのでしょうか(反対意見の表明の場であれば、むしろ、日本国にとっては、韓国側に公式に反論する機会となったはず…)。また、委員会における陳述は、遺産の本来の価値とどのように関係するのでしょうか。陳述内容が優先されますと、ネット上で懸念の声があるように、遺跡の基本コンセプトが変更されることにもなりかねません(”産業革命遺産”から”徴用施設”に?)。結局、韓国の目論み通りにはならなかったようですが、韓国側では、早い段階から用意周到に作戦が練られていたことが伺えます。日本国政府は、国際機構の制度や手続きを熟知すると共に、相手国の策略を逸早く見抜き、今後は、土壇場で追い込まれる展開だけは避けなければならないと思うのです(河野談話で懲りていたはず…)。
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