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2015-07-01 00:00
グレクジットについて考える
池尾 愛子
早稲田大学教授
国際金融の分野では、独特の専門用語が使われることが多い。国際通貨基金(IMF)の緊急融資(concessional loan)の条件は、コンディショナリティ(conditionality)と呼ばれ、IMF融資にしか使われない。そのため、「コンディショナリティ」といえば、IMFが関係すること、国際通貨・金融問題が関係することがすぐにわかる。
「マーストリヒト・クライテリオン」といえば、欧州連合(EU)の単一通貨ユーロへの転換諸基準をさすことがすぐにわかるようになってきているのではないか。財政の条件については、「年度の財政赤字が国内総生産(GDP)の3%以下で、政府債務残高が60%以下であること」が含まれている。昨年度、2014年度の秋の授業で、学生が、経済協力開発機構(OECD)の無料公開データを使って、財政赤字比率、政府債務残高比率を軸にとった図表の上に、加盟国の2つのデータを座標でプロットして、ユーロ圏のどの国もこの二つの基準を満たせていないことを示した。2011年1月にユーロを導入したばかりのエストニアまで、タガが外れたことになる(本e-論壇への2012年8月14日の投稿「ユーロ問題に解決策はあるか」参照)。
昨年、ユーロ圏の問題について私はどう考えるのかと尋ねられて、「ユーロ圏経済では、貿易収支などの経済インバランスを調整する為替レートという(1組の)変数を欠いていることから、問題が発生している」と答えた。翌週から「彼女は経済学者(economist)だ!」という批判が混じったようなコメントが飛ぶようになった。国際的な(ユーロ圏外からの)標準的助言は、「ユーロ圏では財政連合(Fiscal Union)を作る必要がある」となっていたようである。ただ、政府予算の作成途上で互いに監視しあうことが含まれているのかは、怪しいように感じられた。貿易インバランス(赤字や黒字)はといえば、ユーロ圏では2国間で解決すべき課題とされているように聞こえてくる。が、そのインバランスが継続するようになっているようだ。
授業の事はあまり書きたくないのだが、今年の授業でも、「あなたはどう考えるのか」と尋ねられる。「現在のギリシャ問題はどのような影響を及ぼすのか」については、「まず、ユーロ圏でも地中海経済圏(南欧)への影響をみなくてはいけない、欧州の中でも独特の文化をもつとされている」と答えた。ここまでは標準的回答の範囲内のようだ。ギリシャ政府が「金融支援(bail-out)が続かなければ、ユーロ圏を離脱する」と言っていることについては、「(現時点までは、元のギリシャ通貨)ドラクマに戻る準備は全くしていない」という(通貨発行権をもたなくなった)ギリシャ中央銀行関係者の発言を紹介して応じた。今の学生たちは、EUが設立された(1993年)頃に生れ、経済社会への関心が芽生える頃にユーロ圏誕生を目撃した。それでも、ユーロ圏は加盟国がその安定のために揃って努力することを前提として形成されていること、一国でもそのための努力を厭う国が出てくると安定性の維持が難しい事は理解されるのではないか。とはいえ、「グレグジット(Grexit)」、つまり、「ギリシャのユーロ圏離脱」を考えることは、大きなショックを与えるようだ。
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