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2007-01-13 00:00
スーチー女史をどう評価するか
田島 高志
東洋英和女学院大学大学院客員教授、元大使
林田裕章氏の寄稿された「ミャンマーの暗いトンネル」を拝見した。その中で氏は「軍事政権はなぜアウン・サン・スー・チー女史の軟禁にこだわるのか」という疑問を提示しておられるので、その点についてコメントをさせて頂きたい。
普通に考えれば氏のような疑問を持たれるのは至極自然であろう。しかし、私はスーチー女史の方にこそ問題があると観ているので、それをご説明したい。私がミャンマーに在勤した1993年から95年は、タン・シュエ政権が政治面では憲法案審議のための国民会議を開催し、経済面では市場経済を採用して開放化、自由化を次第に進めた時期であった。海外からの投資も次々に入り、新しい私企業も次々に興った。そこで私は日本からの政府援助を徐々に増やし、日本企業の進出も応援すると同時に、ミャンマー政府にはスーチー女史の自宅軟禁解除を強く勧めた。私が勧めたからだけではないと思うが、ミャンマー政府は95年に女史を釈放した。ところが、女史が行なったことは、毎週自宅前で民衆に対し厳しい軍事政府批判を公然と行い、諸外国は経済援助を供与すべきではないなどの発言を繰り返し、軍事政権を苛立たせた。軍政府首脳は、女史との直接対話も行なった。しかし、彼女は直ちに民主化を実現せよと迫るだけで、そのための現実的な道筋を相談するような態度は見せなかった。
私は、女史と4回も個別に会談を行い意見交換を行なったが、抽象論を述べる論客であり、活動家で煽動家であるという印象で、軍人を説得して民主化へ向けて現実的な政治を行なう用意も能力もないと判断した。ミャンマー軍は、エリート集団であり、愛国心も自尊心も強く仕事熱心でもあることを考えれば、彼女が求めるように軍を倒して革命を起すのは非現実的で不可能なことである。軍側も民主化を進め民政移管を行ないたいと言っているのであるから、彼女としても軍側と妥協しつつ徐々に民主化を進める道は探し得る筈であった。ミャンマーの有識者達にも、スーチーがもう少し現実的になってくれれば事態も変るのに、と述べるものがいる。
欧米の多くのミャンマー研究家も指摘しているように、軍事政権の最大の関心事は、国内の安定化である。長年の少数民族武装勢力との戦いを終結させ、国内の統一と安定を確保して経済建設を進めることが彼らの目標である。しかし、女史は二度目の釈放で自由を得るや地方に繰り出し少数民族を煽り、政権と少数民族との協議の進行を事実上妨害する如き行動をとった。その結果、政権側は女史に対する信頼を完全に失っているのが現状である。彼女は国内の安定化を妨害する元凶でしかないと軍政側は観ているのである。彼女が頑固な人物であることは、彼女の周辺の者たちの声としてもうわさされているところである。
勿論、軍政側も相当に頑固であることは間違いない。不幸にも頑固と頑固が対立しているのでなかなか出口が見つからないとも言えよう。日本やアセアンの一部の国は欧米と異なり、ミャンマー人の歴史的閉鎖性と頑固性を理解し得るのであるから、それを踏まえたうえで友情と忍耐を持って適切で効果的な説得と支援を行ない民主化へ進ませる方策を是非とも真剣に検討すべきだと思う。それが長期的に見てアセアン及びアジア全体の安定と発展に欠かせない道だと思うのである。
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