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2015-03-18 00:00
プーチンは身分不相応の“火遊び”をやめよ
杉浦 正章
政治評論家
プーチンがかつてのソ連のように冷戦構造を軸に米国と対峙するような姿勢がなり立つと思っているとすれば、時代錯誤もいいところであろう。ロシアの国内総生産(GDP)は200兆円で米国の7分の1。軍事費は9兆円で米国の8分の1。もはや大国ではないのである。プーチンは「大国」ではなくても、まだ「核大国」ではあるとばかりに、それを選択する手段に出たのであろうが、米欧諸国は核兵器の使用など出来るわけがないと足元を見透かしている。プーチンは身分不相応の「火遊び」を早期にやめるべきだ。ロシア側から最近しきりにウクライナ情勢を巡って核兵器の話が出回っている。2月には「ウクライナのドネツクで核爆弾が使われた」という、ガセネタがロシア側から流された。今月11日にはロシア外務省高官が「ロシアは編入したクリミアに核兵器を配備する権利がある」と発言した。そして15日放映のクリミア編入一周年記念テレビインタビューでのプーチン発言である。プーチンは「ロシアはクリミア編入時に核戦力を戦闘態勢に置く準備があった。状況がどのように展開しても相応の対応が出来るように指示した」と述べたのだ。しかし当時のクリミアには核兵器が必要な戦闘が発生しておらず、不可思議極まりない発言であった。
おまけに、ロシアには核使用の準拠となる「軍事ドクトリン」が存在するが、この規定を満たす状況ではない。ドクトリンは「ロシア連邦は、自国・同盟国に対する核兵器やその他の大量破壊兵器の使用への対応として、また、ロシア連邦に対する通常兵器を用いた国家の存立そのものを脅かす侵略の場合に、核兵器を使用する権利を保持する」となっており、事実上核兵器を「先行使用」し得る規定となっっている。しかし「自国・同盟国に対する核兵器やその他の大量破壊兵器の使用」「国家の存立そのものを脅かす侵略」があったかといえば、いえないのである。あきらかにやらせインタビューであり、プーチン発言は何かと言えば、国内的思惑と対外的思惑が五分五分の割合で存在する。国内的にはロシアは原油価格の暴落とルーブルの下落による急激なインフレに見舞われて、国民の不満が蓄積し始めている。しかし愛国心をくすぐるクリミア編入以後支持率は80%を越え、一時は88%に達した。ロシア国民は今のところかつての日本並みの「欲しがりません、勝つまでは」に似た度し難い愛国主義に固まっており、プーチンはそこに向かって球を投げたのだ。核使用も辞さぬ姿を国民に見せて、「欧米の圧力に屈しない強い指導者」をアピールしたのだ。
一方対外的には、米国を主軸とする通常戦力の圧倒的な優位のなかで、米欧の軍事力に対決しうるものは核戦力しか残っていないのである。冷戦時代にソ連が常とう手段として使った「核恫喝」を持ち出さざるを得ない状況に立ち至ったのだ。つまりそこまでロシアは追い込まれて、窮鼠猫をかむ姿勢を示さざるを得なくなったのだ。背景には核の優先度を高める方針をあえて世界に示すことにより、自らの発言力を高める計算が働いている。国際政治の舞台においてはプーチンは何をやるか分からないと思わせておいた方が、自らの発言に対する注目度が強化されると言う判断であろう。
しかし冷戦で米国と張り合った夢よもう一度と言っても、構造的にロシアの力は冒頭述べたとおり弱体化しており、冷戦の構図を作り出すことは不可能に近い。要するに、実態はプーチンの「火遊び」であり、冷戦構造と言うより、冷戦の真似事的な色彩が濃厚なのである。それでは日本がこの「疑似冷戦」にどう対応すべきかだが、「北方領土返還」という悲願を抱えている以上、「対話」の路線は継続すべきであろう。先にも書いたが、ウクライナ問題で世界から孤立しているプーチンの弱みを突くチャンスでもある。愛国主義一色にロシア国民を扇動しているプーチンが「北方領土を返還する」と言えば、一挙に支持率が下がり、暴動が起きかねない事態も想定される。したがって返還の実現性は遠のいているが、溺れる者はわらをも掴むで、あのルーピー鳩山ですら“活用”するロシアである。首相・安倍晋三の“活用”が可能となれば、何らかの譲歩に出る可能性も否定出来ない。先進7か国の団結は維持しなければならないが、他の6か国は直接的な領土問題を抱えていない。だから安倍が領土で対話をする場面を作っても、全くおかしくない。対中けん制のためにも日露首脳会談の模索は継続すべきであろう。
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