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2015-02-21 00:00
(連載1)MITスタイル対日本スタイル
池尾 愛子
早稲田大学教授
2月11-12日に本欄で紹介した研究書『MITとアメリカ経済学の変貌』では、MIT(マサチューセッツ工科大学)流経済研究のメリットとして、一見極端な定理と経済データを対照させて、現実経済の動態的変化の理解を深めるような研究を推進してきたことが挙げられた。例えば、労働と資本の完全代替性を仮定した経済成長の定理から得られる推測と、現実の経済データとのギャップを計測して、経済の変化について考察が進められた。
ロバート・ソローの成長定理を参照しての研究であったので、定理からの推測と現実のギャップは当初「ソローの残差」と呼ばれ、それは1980年代あたりから全要素生産性(TFP)と呼ばれるようになった。つまり、技術進歩や全生産要素の生産性の向上の総計とみなされ、経済成長分析で大いに注目されるようになったのである。
上の書物に入って当然にもかかわらず入らなかったものに、貿易論における要素価格均等化定理というのがある。スウェーデンのエリ・ヘクシャーとB・ウリーン(オリーン)が原型を提示し、1940年代以降、MITのサミュエルソンがこれを折にふれて取り上げて貿易論研究の道筋を整えてきたといえる。通常は、2国、2生産物、1生産要素(労働)が仮定され、特定の諸条件が揃えば、生産要素の移動がない時でも自由貿易が行われれば、生産要素の価格は2国において均等化することを主張する内容を持つ。
つまり、労働者が国境を越えて移動しなくても、生産物の自由貿易が行われれば、2国の賃金格差はなくなることを意味した。当初、ヨーロッパとアメリカの間の貿易が例示されてはいたが、自由貿易により相対的先進国では賃金率が低下する可能性があることが(行間で)示唆されていて、自由貿易に対する懐疑の念が一部で共有されていた。しかしながら1960年代の経済データは、相対的後進国を含む多くの国々での賃金上昇を示していたので、その原因をめぐる議論--要素価格均等化定理が成立しない諸条件--が活発に行われるようになったのである。(つづく)
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