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2015-02-12 00:00
(連載2)戦後アメリカ経済学とユダヤ人達
池尾 愛子
早稲田大学教授
サミュエルソンをまず世界的に有名にしたのは教科書『経済学』(1948年)であり、これは経済学入門書に対する大きな需要に応じて供給されたものであった。振り返れば、同書出版後も、年長の北米人たちにとっては、セリグマン(1861-1939)の『経済原論』の方が好まれていた。
しかし今回の論文集では、ヨーロッパやラテンアメリカの非英語圏の若手研究者達が中心になって、サミュエルソンの『経済学』やMITの経済学が徹底解剖された。セリグマンの教科書ではレトリック(修辞)がスパイスのように効かされ、北米文化を学べて英語自体の勉強もできる。それに対してサミュエルソンの教科書では、一貫してテクニカルに議論が展開され、英語を修得していなくても、経済学の入門的知識があれば原書を読み通せるので、非英語圏の学生達にとっては非常に有り難かったのである。これにより、アメリカの経済学の教科書が世界市場を得るとともに、経済学教育における教科書の位置づけが高まっていくのである。
本書には、黒人差別や女性差別がその後も続いたこと、黒人の経済学博士号取得者の推移と黒人経済学史家自身の体験の報告が含まれている。「戦後のアメリカ経済学を変えたのはユダヤ人達である」という着想を持った日本人達がいたと記憶する。歴史はタイミングよく発表されなくてはならないだろう。ユダヤ人教師はユダヤ人であることを教室では極力言明しない――その理由は成績評価を巡ってムスリム学生とトラブルに陥る可能性を避けるためであるといってよい。さらに本書の主題はアメリカ経済学の変化であり、ユダヤ人達と同様に、日本人の故宇沢弘文氏らの貢献が織り込まれている。
日本人経済学者の国際貢献が増加するのも戦後である。こうした研究分野において、若い人たちには、言語文化の相違に配慮し、差別問題の緩和が進む戦後史(あるいはrecent history)の研究に積極的に取り組むことを薦めたいと思う。(おわり)
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