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2015-02-05 00:00
内調を軸に強力な情報機関を作れ
杉浦 正章
政治評論家
「日本人殺害効果」に味を占めて、今後の殺害も予告したという事は、イスラム国(ISIL)の日本に対する宣戦布告に他ならない。国会での共産党や民主党による陳腐な「首相の言葉尻の揚げ足取り作戦」に首相・安倍晋三はかかわずらっている時ではない。言葉尻などISILですら問題視していないし、国際的にも全く問題になっていないではないか。安倍は事態を国家安全保障における大きな転機ととらえて、対策を打ち出さなければならない。その柱に自衛隊の人質救出能力創設を掲げたのは正しい。今回の事件を通じて露呈したもう一つの安全保障上のウイークポイントは情報収集能力である。これを飛躍的に拡充する必要がある。それには首相直属の機関として日本版CIAともいえる情報機関の早期設置が不可欠だ。既にある内閣情報調査室を核として拡大を図り、これに諜報能力も付与した、新組織に発展させる必要がある。首相・安倍晋三はテロ直後に「情報戦」を宣言した。テロに対する情報戦はこれから始まるのだ。
今回の人質事件の情報の動きを見ていると、最初に一番気になったのがテロ2日前の1月18日に安倍との会談でイスラエル首相のネタニヤフが「世界的にテロの動きに直面している。日本も巻き込まれる可能性があり、注意しなければいけない」と忠告した点だ。なんで唐突にと首を傾げたが、イスラエルのモサドは世界に冠たる情報機関であり、その情報に基づいている可能性が高いと思い直した。問題はモサドに近い内閣情報調査室がその情報を得ていたかどうかだが、これは分からない。しかし安倍の国会答弁で4日新たに出てきた事実は、日本人2人の人質がISILに拘束されたのかどうかがはっきりしない点だ。安倍は「残念ながら我々は20日以前の段階ではイスラム国と特定できなかった」と発言しているのだ。これは日本の情報収集機能がいかに弱いかという問題を投げかけている。
その弱い情報収集能力をいかに高めるかが、国家的にも死活問題として浮上したのが、今回の事件だ。内閣の情報の中枢は内調だが、その規模は内調プロパー約70人、警察庁からの出向派遣者約40人、公安調査庁からの出向派遣者約20人、防衛庁からの出向派遣者約10人、外務省、総務省、消防庁、海上保安庁、財務省、経済産業省等から若干名の計約170人だ。米CIAが推定2万人、イギリスのM16は2,500人、モサドが1500~2000人と比べて、比較にならない人数である。筆者は、内調室長が下稻葉耕吉の時代から11代30数年にわたって、主要紙幹部と内調室長との月1回の昼食会を調整してきた。歴代室長は警察畑で総じて優秀だったが、外国紙の切り抜きばかりやっていた室長も約一人居た。情報はなかなか漏らさず、こちらが政局の情報や見方を教えるケースの方が10倍ぐらい多かったが、それでも時々きらりと光る情報があった。もっぱらCIA情報と時にはモサド情報とみられるものがあった。少人数にしては立派な情報組織である。
そもそも内調は吉田茂が1952年に設立した組織で、吉田はこれを土台にして日本版CIAを作ろうと考えていた。副総理・緒方竹虎を中心に構想が練られたが、緒方の死とマスコミの反対でとん挫した。当時は左傾化していた読売を先頭に、朝日、毎日が「戦前の情報統制の復活」ととらえて猛反対したのが大きな原因である。現在の内閣が抱える情報面での最大の課題は、諜報による直接情報が少ないということであろう。安倍は防衛駐在官の数を増やす方針だが、これははっきり言ってそれほどの効果は期待できない。当分は友好国の情報に頼らざるを得ないのだが、これは人質の救済を他国に依頼するのと全く同じで、テロ多発時代に対応できるものではない。何度も繰り返すが20年の東京オリンピックが今のままでは標的にされる。少なくともされ得ることを目標に設定して、早期に体制を整える必要がある。
それには新組織などを作っていても間に合わない。内調を中核として、少なくとも1000人規模の情報機関に徐々に脱皮させる必要がある。マスコミの論調は吉田の頃と異なり、「テロ対策」という錦の御旗にそれほどの反対はないだろう。少なくとも読売、産経は推進に回るだろう。安倍はISIL事件を契機に、今年を「安保維新元年」ととらえて、躊躇せずに国家の弱点の修正に取り組むべきだ。これは安倍しか出来ないし、避けて通れない道でもある。欧米主要国でもテロ対策強化は喫緊の課題となっている。カナダ首相のハーパーは1月30日、国内でのテロ行為を未然に防ぐため、情報機関や捜査機関の権限を大幅に強化する法案を議会に提出した。昨年10月に国会議事堂で発生した銃乱射テロなどを受けての措置で、議会は与党が多数を占めるため成立は確実だ。日本も現実を見据えて見習うべきだ。
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