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2015-01-29 00:00
安倍は、国内へのテロ攻撃に万全を期せ
杉浦 正章
政治評論家
道理の通じないテロリスト相手の人質救出は最後まで予断を許さないが、今回の人質事件でイスラム国(ISIS)が突き付けた課題は、集団的自衛権をめぐる安保法制への影響と同時に、日本がテロとの戦いに物心両面で巻き込まれた事を意味する。イスラム国もアルカイダも日本の経済支援を「十字軍への参加」と受け取り、はっきりと「敵」として位置づけている。首相・安倍晋三は難民支援など有志連合への経済支援を継続する方針を明示しており、テロ組織にとって世界第3位の経済大国による莫大な経済支援は脅威そのものに映る。ここで重要なのはとかく「海外の邦人」に目が行きがちだが、先進国でも最もテロにバルネラブルな(vulnerable=すきだらけで攻撃に弱い)体質を持つ日本社会へのテロ攻撃対策が万全かと言うことである。
ニューヨークの9.11テロ後は一時日本にも緊張が走ったが、その緊張感は持続していない。日本にイスラム国やアルカイダが目を付けるとすれば、弱点は山ほどある。新幹線も時限爆弾一発で壊滅的な破壊をもたらしかねない。人口密集地に生物兵器によるバイオテロでも仕掛けられたらひとたまりもない。地下鉄サリン事件の例もある。おそらくテロリストにとって2人の人質事件を起こすまでは日本の存在は眼中になかったであろうが、今度の事件で「バルネラブル・ジャパン」がテロの対象として浮かび上がったと警戒しなければならない。テロリストにしてみれば、空爆に参加しているかどうかなどは言い訳にはならない。有志連合にカネで参加しているとみれば、その根を絶つためのテロは当然選択肢に挙がると見るべきであろう。
一方で、テロリストからの邦人保護のための法改正が、これも好むと好まざるとにかかわらず集団的自衛権を巡る安保法制の課題となる。しかし、今回のような人質事件が自衛隊派遣の対象になるかと言えば、全くなり得ない。なぜなら、国の警告も無視して危険地域に潜入する人物を、自衛隊員の命を代償に救出することなどは、国論が決して一致しないからだ。いくら許しがたいテロ行為であっても、できることとできないことがある。だいいち昨年7月に閣議決定した「武力行使の3要件」にも合致しない。同要件は「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される危険がある場合」に限って武力行使を認めているのである。人質にされたからと言って、イスラム国と戦うために自衛隊を派遣することなどむしろ荒唐無稽(むけい)の部類の属する。
自衛隊が救出に出動するような場合は、政府機関や民間企業などが襲撃されて多数の職員が人質となったようなケースしか考えられまい。そのようなケースを想定した場合は、現在の法体系では不十分となる可能性が大きい。安倍もNHKで「海外で邦人が危害に遭ったとき、現在ではそのために自衛隊の持つ能力を使うことはできない。そういったことを含めて法制化を進める」と言明している。政府の法整備も、あくまで「領域国の同意」を前提に「自衛隊が警察的な活動が出来るような範囲で進める」方針である。イスラム国の壊滅までには2~3年の期間がかかるとされているが、安倍は「武力行使で有志連合に参加するつもりはない。今行っている非軍事分野において難民支援を中心にした支援を行う。その方針が変わることはない」と明言している。しかし、軍事的貢献はしなくても、当初イスラム国が「2億ドルの支援額と同様の2億ドルの身代金」を要求したことが物語るように、日本の経済支援は時には空爆以上の効果をもたらす。安倍は「リスクを恐れるあまりテロリストの脅しに屈すると、周辺国への人道支援はおよそ出来なくなる。我が国はテロに屈することなく、今後とも日本ならでの人道援助を積極的に推進する」と述べた。イスラム国との戦いに、人道支援で参加したのであり、おさおさ法改正のみならず国内でのテロ対策も怠りなく取り組まなければならない。
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