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2015-01-22 00:00
(連載1)「積極的平和主義」の落とし穴か
尾形 宣夫
ジャーナリスト
イスラム過激派組織「イスラム国」による邦人2人の人質身代金要求事件は、予告から72時間というごく限られた時間で向き合わなければならい、極めて困難な問題になってしまった。安倍晋三首相は予定を繰り上げて急きょ帰国、「人命第一」を最優先に、関係各国との連携を密にして総力を挙げて取り組むよう関係閣僚に指示した。事件は首相が言うように、まさしく厳しい時間との戦いである。首相の積極的平和主義の足元を脅かす事件がどう展開するか、全く予断を許さない。問題解決の妙案があるわけではない。「安倍1強」政権に考えもしないような難題が飛び込んできてしまった。
相手は民主主義の常識が通じない過激派集団である。安倍政権としてはこれまでの外交で培ってきた関係各国と緊密な連携を取りながら、事件に対応するしか道はない。イスラム国が勢力を広げるシリア、イラクなどに難民・避難民対策として約束した2億ドルの無償資金協力が「人道支援」だと、粘り強く説得するしか道はないが、異教徒を「十字軍」に見立て敵か味方かの判断しかしないイスラム国に、わが国の「人道支援」が理解されるとも思えない。米英両国のような強硬手段に打って出ることはもちろんできない。現状は八方ふさがりの状態なのだ。
それにしても、想定外の事態が起きてしまった。新年早々、積極的平和主義の最初の仕事として中東に乗り込んだ首相の意欲は理解できるが、なぜこの時期にという疑問はぬぐえなかった。せっかくの夫人同伴の新年の外遊が人質問題と鉢合わせになるとは皮肉な巡り合わせだ。首相の今回の中東訪問は、和平交渉が暗礁に乗り上げたままのイスラエルとパレスチナを訪問して、安倍政権の積極的平和主義を世界にアピールする狙いがあったのだろう。安倍外交を中東の混乱がもたらす事態に黙っていないで積極的に関与しようという前向きなスタンスで出向いたはずだ。だが結果的に、首相の中東訪問は事件を引き出してしまった。問題解決に欠かせないのは、現地の情報である。ところが、事件現場がシリアのどこなのか、まるで分からない。在シリア日本大使館は、治安悪化で既に隣国のヨルダンに転居して、シリアに日本政府機関はない。今回の外遊で首相が訪問したヨルダンやエジプト、さらには親日的なトルコなどを介してイスラム国と連絡を取るしか術はない。同時に、自前の情報ルートを持たない日本としては、イスラム国に対して「有志連合」を組む先進各国のインテリジェンスに頼らざるをえない。
事件は安倍首相の中東訪問を待ち構えてインターネット上に公表された。2人が拘束されたのは昨年夏から秋にかけての時期だ。しかし以後、この2人の動静が伝えられることはなかった。それが今回、突如ネットに登場したのである。今回の事態を少しでも予想できなかったのだろうか。(つづく)
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