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2015-01-08 00:00
戦後70年問題は「遠交近攻」の先手を打て
杉浦 正章
政治評論家
中国戦国時代の諸子百家の一つ「縦横家」(じゅうおうか)が諸侯に述べた外交戦略に「遠交近攻」があるが、今年の極東情勢は日中双方がこの策略を軸に対峙(たいじ)するだろう。中国国家主席・習近平は自らの権力基盤総仕上げの年と位置づけ、戦後70年問題を軸に「遠交」を展開、対日政治圧力を加えて、日本を外交上ねじ伏せようとするだろう。これに対して首相・安倍晋三は就任以来繰り返して主張してきた「積極的平和主義」に軸足を置き、やはり「遠交」による中国の覇権路線封じ込めを展開するだろう。「遠交」の焦点となるのは米国取り込みだ。流れは米国におけるプロパガンダ合戦の様相を示す方向だ。際どい接戦が展開されるが、6対4で安倍が勝つだろう。新年のテレビ評論を黙って聞いていたが、国際情勢を述べる外交評論家の使う枕詞に「米国の衰退」がある。何かの一つ覚えのように「米国の力が弱まった」と言うが、この認識は間違っている。それならば主要国の状態はどうかと言えば、日本以外はおしなべて衰退だ。ヨーロッパは「ギリシャ危機」が本格化しようとしており、景気は低迷。統合の危機にすら直面している。ロシアはプーチンの場違いで時代錯誤の大国主義が石油暴落で危機に瀕している。民族主義を刺激して支持率を上げようとする邪道ポピュリズムのツケが回っているのだ。
中国は日本の浅薄な評論家が「習近平は毛沢東、鄧小平なみの権力基盤を築いた」と唱えるが、どうだろうか。筆者は習近平には毛沢東や鄧小平にあったライオンのような「陽性」がなく、は虫類のような「陰性」が際立つと思う。この「陰性」が災いして内政外交の展開は限界が生じよう。「陰性」の象徴が、権力基盤を対抗勢力への汚職の摘発と、国民世論を日本軍国主義批判など策略のみでまとめようとしていることだ。要するに「陰険」なのである。陰険と受け取られる指導者が、ことをなした例は古今東西においてない。米国はどうかと言えば、筆者はベトナム戦争時代にワシントンに滞在したが、その時代の米国ほど衰退していない。当時はベトナム戦敗退とウオーターゲート事件でのニクソン退陣もあって、米国は外交どころではなく、世相もすさみ、モンロー主義的な閉じこもりの雰囲気が横溢していた。現在はむしろシェールガス革命と石油価格暴落の恩恵を享受する流れであり、オバマはヨーロッパと中東の泥沼に足を突っ込むことはほどほどにしたいだけなのである。それより世界第3位の経済大国で、集団的自衛権の行使など安全保障意識がようやく芽生えた日本と組んで、アジアにおけるリバランス(再均衡)を展開したいのだ。正月の浅薄評論には「米国は日本より中国重視」という噴飯物があったが、それはない。もちろん中国とは経済的な結びつきは日本同様に強化の流れであるが、外交・安保政策では、アジア太平洋経済協力会議(APEC)における米中首脳会談が“物別れ”的であったことが象徴するように、中国の覇権主義と対峙する姿勢に変化は感じられない。
一方日本は、詳しくは明日の本欄への投稿で述べるが、近年まれに見る明るさである。正月の財界人の経済見通しを昔「あてにならない」と漏らした愚かな内調室長が小泉政権時代に居たが、大企業社長らの年始の見通しほどあたるものは無い。ある意味で命がけの予想であるからだ。それがおしなべて「今年はいける」だ。株価も年度末2万円超の予測が多い。アベノミクスに神風となることは言うまでもない。全くあたらない経済評論家の言は信用しないのが一番だ。選挙圧勝といい、原油暴落といい、安倍はここ数代の首相で最もついている。政治家にとってツキほど重要な政治要素はない。その安倍について習近平は、唯一の「隙」を歴史認識問題とみなして、戦後70年を機会に古傷を突こうとしている。朝日新聞など一部日本のマスコミがこれに同調することは目に見えている。安倍は中国とメデイアが合体した形での70年問題展開を覚悟すべきである。その焦点は冒頭述べた遠交近攻戦略の通り、米国が70年問題にどう対応するかである。米国内ではニューヨークタイムズ紙などのリベラル派が中国に同調する可能性があることを警戒しなければならない。そもそも習近平は、共産党政権が対日戦争に勝ったような発言を繰り返すが、その主張の正統性には疑問がある。日本と主に戦って勝利したのは国民党政権であり、中共はそれほど顔を出してはいない。それに70年問題とは何か。単に節目であるだけであり、日本をおとしめる思惑があるから存在するだけだ。日本が痛がるから傷口に塩をすり込むだけのことでもあろう。うまくいったら次は71年問題かと言うことになる。
それなら英国のアヘン戦争にも記念日を作ってはどうか。危険なドラッグの製造「輸出」を看過しているのは世界に対するアヘン戦争の仕返しなのかと思いたくなる。しかし、国内を「反日」で統一したい習近平は昨年、立法機関である全人代の常務委員会会議で、9月3日を「抗日戦争勝利記念日」に、9月30日を「烈士記念日」に、そして12月13日を「南京大虐殺殉難者国家追悼日」にするなど、一連の日中戦争関係記念日に法的地位を与えた。今年は当然米世論にも働きかけて一大プロパガンダを展開するだろう。しかし米国の朝野が挙げて70年問題で対日批判を展開して中国に同調することはあり得ない。親日家でコロンビア大学教授のジェラルド・カーチスは「70年前のことをとやかく言う必要は無い。むしろ70年後に日米が中国などアジア情勢にどう対応すべきかが問題だ」と述べているが至言だ。またオーストラリア首相アンソニー・アボットが「日本は公平に見て70年前の行動ではなく、今の行動で判断されるべきだ」と述べているのは心強い。安倍は、大使館など外交機能をフルに使ってこうした国際世論を一層高めるべきだろう。戦後近隣諸国と戦争を繰り返してきた好戦的中国共産党に比べ、自由を守り平和に徹して、莫大(ばくだい)な政府開発援助(ODA)を続け、世界平和に貢献してきた日本の立場を堂々と主張すればよい。安倍は5月連休の訪米の焦点の一つに70年問題を加え、オバマに「戦後レジームからの脱却」の真意を説明して、終戦記念日から抗日戦勝利記念日にかけて展開される習近平の反日キャンペーンに確かな同盟の礎を築くべきだろう。先手必勝ということだ。習近平の打揚花火を水をかけて湿らせる必要がある。
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