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2015-01-02 00:00
アベノミクスは喜劇か悲劇か
中村 仁
元全国紙記者
総選挙の圧勝で、安倍政権はあと4年の任期を続けるチャンスを手にしました。わたしは、冗談としていえば、10年以上の超長期政権を目指してもらいたいと思います。デフレ脱却のための異次元金融緩和の成果を見届け、怒涛のようにつぎ込んだ前代未聞の規模の日銀資金を回収し、大冒険を総括する「後書き」を書くには、まだ10年も20年も要するからです。黒田日銀総裁も再任して、通算の任期を10年以上にしていただきたいと、思いますね。もちろん、失敗した場合、責任をとってもらえるように、という意味をこめての話です。これから何回か、「安倍さんへの質問状」という形で、疑問点をとりあげていくつもりです。アベノミクス(安倍政権の経済政策)が喜劇になりうるのか、悲劇になりかねないのかを、考えたいと思います。今回はその総論です。2人の冒険は、成功すれば、日本金融財政史はおろか、世界金融史に特筆される偉業となります。失敗し、日銀が大量に保有する国債の重圧に沈み、財政破綻ないし危機に追い込まれれば、これも歴史に特筆されます。これまでそうした政策がとられなかったのは、2人がやっているような規模の冒険には、皆、恐れをなしたからです。金融政策の効果をそこまで過信できなかったからです。何事にも強気一辺倒の首相、金融政策を過信する総裁という稀有の組み合わせで初めて可能になりました。
二年たったアベノミクスには、まだ前書きと第一章の部分しかありません。「金融緩和、財政出動、成長戦略の3本の矢で日本はデフレから脱却する。消費者物価上昇率を年2%とする。日銀は世界が驚くような異次元緩和をし、デフレ心理に染まった国民の気持ちを転換させる」。前書きを読んだときは、「本当にそんなことができるのかな。それにしても大胆な実験だ。失敗したら、とんでもないことが起きる」と、中立的な経済専門家の多くが思いました。第一章では、株高に歓喜の声をあげた人たちも多く、その波及効果を期待しながら、消費増税に踏み込んだところで、個人消費が萎縮し、マイナス成長に落ち込みました。物価はどうかというと、少しは上がり始め、デフレ心理は払拭かと、政府・日銀が主張し始めました。その後、原油安もあり、「2年で2%」の物価目標は遠のき、1%割れ(つまり景気は悪い)です。「目標が達成できなかったら辞任する」とまで宣言した日銀副総裁のひとりは、今頃、何を思っているのでしょうか。
日本ばかりでなく、世界全体の景気が手詰まりの気配ですから、大胆な手を打つことは必要です。だからこそアベノミクスは世界の注目を集めたのです。成功すれば大実験は賞賛に値します。失敗すれば、どうでしょうか。日本の財政・金融は深刻な危機に襲われ、株価の暴落、国債金利の急騰、という面からも注目を集めているのです。昨年の大納会の株価は1万7千円台半ばで引け、7年ぶりの高値に喜んでいる人も多いことでしょう。考えてみれば、政府・日銀が怒涛のようにマネーを注ぎこんでいるのですから、異常な金融相場が起きないほうが不思議です。経済の好循環が始まり、注ぎ込んだ日銀マネーを回収できた後も、つまり「官製マネー」が引いた後も、高値を維持できるかこそが肝心な点です。そこに言及しないで、株高を喜ぶのは、それを支える市場のカラクリに気づいていないからです。安倍政権は当然、そんなことは申しません。
大量のマネーをどう回収するか、つまり出口にどうやってたどりつくのかです。毎年、40兆円もの国債を発行し、先進国で最悪の財政赤字を抱える日本です。今年も3・5兆円の補正予算、その前の年は5兆円、その前の12年度は10兆円の補正予算をくみました。よほどの好景気がこないかぎり、追加発行している国債の規模以上の税収はあがりません。「結局、いつまで日銀はつき合わされるのか。いずれ壁にぶつかる」と、日銀の人たちも心配になっているはずです。まともな経済専門家ほど懐疑的なっています。2人には今のポストにあと10年は座っていてもらい、「後書き」にたどりつく義務があるように思います。
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