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2006-12-29 00:00
留学生奨励は双方向で
湯下 博之
杏林大学客員教授
世界、そして特に日本を含むアジア地域が大きく動いて行く中で、日本がその流れに取り残されたり、孤立したりすることなく、流れの中心にいて、流れを主導することは、21世紀の日本にとって、国の運命を決するほどの大切な課題である。日本がこの課題を成功裏にこなすためには、政治的にも経済的にもそれなりの力を持っていることが必要であることは言うまでもないが、それに併せて必要なこととして、日本が諸外国、特に近隣諸国との間で、表面的でない深い相互理解を図るということがある。そのための方法として、人的交流や文化交流、更には相手国の文化や歴史に関する学問的な研究や紹介等様々なことが挙げられるが、今回は留学生奨励の問題についての一つの視点を提示したい。
日本と近隣諸国との間の留学生の奨励については、アジア諸国から日本への留学生に関しては、日本政府をはじめ各方面の熱心な取り組みが見られるが、非常に限られているのが現状である。この点について、1996年から99年まで私が大使としてフィリピンに滞在中に、フィリピンの或る知日派の政府高官から、一度ならず次のような話を聞いた。「日本と東南アジアとの関係について考えた場合、日本のことがよく分かっている東南アジアの人はそれなりにいるが、東南アジアのことがよく分かっている日本人が少ない。日本と東南アジアとの関係は今後益々緊密化するものと期待しているが、それに伴って不可避的に問題や摩擦も生じる。その際に、東南アジアのことがよく分っている人が日本には少ないために、関係がギクシャクするということは、是非とも避けなければならない。そのためには、東南アジアから日本への留学生に加えて、日本から東南アジアへの留学生を増やすことが必要である」と。私はこの意見に賛成であり、何とか実現したいと願う一人である。
日本から東南アジアへの留学生を増やすためには、先ず、日本の若い人達に東南アジア留学への関心を持ってもらうことが必要である。そのためには、日本の高校生や大学生が、例えば夏休みを利用して1ヶ月間東南アジアの一国に滞在し、出来ればホームステイをするとともにその国の学生達と交流するといったプログラムが有意義と思われる。実は、私はフィリピン在勤中に、パラワン島を訪問して日本の或るNGOが実施中のマングローブの植林プロジェクトを視察した際に、日本の或る大学の学生約30名が、夏休みを利用して1ヶ月ほどパラワン島に滞在し、体験学習としてそのNGOの活動に参加するとともに、現地の学生とも交流を行っているのに出会い、感銘を受けた。このような形のフィリピン訪問は、マニラを観光ツアーで訪れる場合等では得られない貴重な体験をすることができ、自分発見の旅にもなって、一生の財産になるように思えた。そして、もし、大学生ではなくて、高校生にこのような体験をさせてあげることができれば、それが縁で、後にフィリピンの大学に留学する人も出てくるのではないだろうかと思った。
そのような形での高校生の東南アジア滞在経験を奨励するには、種々の方法があり得ようが、例えば、日本に何らかの形で基金を設立し、東南アジア側に然るべき受け入れ機関を作って、毎年一定数の高校生を東南アジア諸国に滞在させ、東南アジアの学生と交流させるといった仕組みはできないであろうか。米国にアメリカン・フィールド・サービス(AFS)という制度があって、日本の高校生が米国に招待され、米国を知り、米国の学生と交流して、貴重な経験を積んでいるが、このAFSの東南アジア版を日本に作って、日本の高校生に東南アジアを知ってもらうことができたらと思う。
因みに、東南アジアへの留学の必要性についての話をすると、欧米の大学ならともかく、東南アジアの大学に行っても、東南アジア研究者になる人を除き、得るところがないのではないのかという反応に接することがある。しかし、日本の大学生活の実態を見た場合、その目的は、必ずしも学問的に高い水準の勉強をすることではなく、一応の学問的知識を得ることに加えて、友人との交流等を通じて広い教養やものの考え方等を得ることになっていると思う。そうであれば、東南アジアの大学で得るところは十分あるし、アジア太平洋の時代ともいわれる21世紀において、国際的に幅広い活躍のできる人材となるためには、東南アジアでの大学生活は大いに役立ち得るものと思う。フィリピンの場合には、英語力を身につける上でも有益であることは間違いない。
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