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2014-12-03 00:00
(連載2)ドラキュラZEROからアメリカの深淵をのぞく
六辻 彰二
横浜市立大学講師
その一方で、自国が犯した過ちを認めるのが難しいことは、いずれの国であれ同じです。そのなかで、客観的に振り返るよりむしろ、自らを慰撫する意見、すなわち「そもそも相手が悪い奴らだったのだ」とか「目の前の脅威に対抗するためには、やむを得なかった」といった主張がでやすいことも、これまたいずれの国であれ同じです。これをドラキュラZEROに照らして考えると、イスラーム世界の一つの象徴であるオスマン帝国を「巨大で邪悪な外敵」と描き、その出現に対して、自分たち(あるいはキリスト教圏)を守るために、ヴラド公は「もう一つの悪」に身を窶さざるを得なかったという話になるのであれば、それはつまり「やむを得なかった」という話になりがちです。これを単純化していえば、「イスラーム圏との対立は、結局相手の方に根源的な問題があったのだ」というメッセージになりかねません。
アメリカの国際政治学者ジョセフ・ナイは、文化、理念、政策などで相手を引き付ける魅力を指して「ソフト・パワー」と呼びます。そして、ナイによると、映画などの「大衆文化は、個人主義、消費者の選択など、政治的に重要な影響を及ぼす価値観に関するイメージやメッセージをそうとは意識されない形で伝えることが少なくない…。アメリカ文化にはけばけばしさがあり、セックス、暴力、退屈、物質主義があるが、それだけではない。開放的で、流動的で、個人主義で、権威を嫌い、多元的で、自主性を重んじ、民衆の意思を尊重し、自由を重んじるアメリカの価値観を描いてもいる」(J.ナイ, 2004, 『ソフト・パワー』 山岡洋一訳, 日本経済新聞社, p.84)
確かに、ナイの言うように、映画などのメディア・コンテンツは、その社会の価値観を暗黙のうちに伝える力があるでしょう。そして、ハリウッド映画がアメリカの文化や価値観を世界に広める担い手として重要なことも、否定できません。ただし、そこで伝えられるイメージやメッセージは、ナイ自身が認めているように、自由や反権威主義などプラスのシンボルだけでないこともまた確かです。
広く知られるように、1930年代のハリウッド映画の悪役は、多くの場合ドイツ人でした。そして冷戦時代、その座はロシア人に移りました。そして、1980年代の末、日米貿易摩擦を背景に、ごく短い期間、日本人が悪役で描かれる時期があり、その後はアラブ系やムスリムが多くなりました。つまり、実際にアメリカ政府やアメリカ国民にとって「敵」とイメージ化しやすい者ほど、悪役に描かれ、そのイメージが世界レベルで配信されることになります。言い換えれば、アメリカの世界認識がイメージ化されることになります。それは一方で、悪役に描かれる「他者」との間の溝を深めることに他なりません。(つづく)
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