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2014-11-12 00:00
(連載2)奇怪な外交用語が日中を惑わす
中村 仁
元全国紙記者
案の定、日中首脳会談前の写真、映像撮影で、習近平主席は安倍首相と目を合わせず、目が合いそうになると、意図的にそらすという動きを何度かしました。国内向けに、日中は和解したのではないというゼスチャーを示したかったのかもしれません。失礼な対応がありありでしたね。せっかくの合意文書が発表されたばかりだというのにね。双方が努力して、健全な関係を築くことで、今回の合意が意味を持ってくるのでしょう。
以前から不思議でしょうがなかったのは、「領土問題の棚上げ」という表現をめぐる論争です。今回の合意は、「それぞれの見解があっていい」、「この時点では結論をださない」という意味でしょうから、尖閣諸島の領有権紛争の「実質的な棚上げ」ですね。これが外交交渉となると、つまり日本外交担当者の側からみると、「棚上げ」とはなりません。日常用語と外交語は違うのですね。
過去、「尖閣問題は放置し、以後の解決にゆだねる」とか「この問題を今回は話したくない」と中国の首脳が語り、日中間で「棚上げ」合意があったとされた時期もありました。外務省は「尖閣をめぐる領土問題は存在しないのだから、棚上げもありえない」と否定してきました。ただし、首脳会談などの外交交渉では「棚上げ」という表現はつかわなくても、実体はそれと同じ意味の発言をし、日本側も特に反論しなかった時期があったことは確かでしょう。領土問題も外交語と日常語では意味が違うようですね。日常語の世界では、「日本に帰属する尖閣諸島に中国人が上陸したり、周辺の領海で中国漁船が日本の巡視船に衝突してきたり、これはあきらかに領土問題、紛争に相当する」となります。一方、外務省の公式見解は「あくまで日本の領土なので、領有権を争う領土問題は存在しない」となります。
結論を申せば、中国が尖閣問題で日本の主張をのむことは、まずなかろうということです。相手が引っ込まないのですから、どういう表現を用いようとも、実質的に「棚上げ」にすることを前提に、「戦略的互恵関係の発展」や「不測の事態に海上連絡メカニズム、危機管理メカニズムの構築」に取り組むしかありません。 メディアなどでも「領土問題では譲るな」など、との主張が聞かれます。日常語では「棚上げしたところで、少しも譲っていない」ということがあるのです。メディアや識者は外務省などと違う思考方法で、一般国民も理解できる言語表現で日中問題で発言してもらいたいと思います。「領土問題」が存在することは認める、「棚上げ」も認める、その上で懸案の解決を目指すという手法もありえます。第三者までがむきになってナショナリズムをあおる結果を招く心理から卒業しなければなりません。(おわり)
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