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2014-10-31 00:00
大気汚染対策に向けて
池尾 愛子
早稲田大学教授
幾つかの報道によれば、10月19日(日)未明、北京のPM2.5(吸入性微小粒子状物質)の濃度が1立方メートルあたり400マイクログラムを越えて、今年最悪の数字を示した。私が北京のホテルにいて、目が痛くて目を覚ましたのは、その時分だったようだ。一体何が起っているのだろうと、窓から外を眺めた。薄明かりの中、寝ぼけ眼を凝らして見ると、まるで火山灰が舞っているように見えた。路上に灰は積もっていないので、火山灰ではない--ああそうか、これが北京のスモッグなのかとようやく事態がわかってきた。
18日(土)には晴れて青空が見え、夜になると冷え込んだというけれど、その翌日にいったいどうすればこんな「まるで火山灰が舞っているみたい」になるのだろう、という疑問にとりつかれた。翌20日(月)、目に見えるスモッグは前日より悪化していたものの、目に見えないPM2.5の濃度は低下していたようで、目の痛みで目覚める事は無かった。PM2.5濃度とスモッグ濃度にはゆるやかな相関関係しかないようだ。昼過ぎにホテルから珍しく交通量の少ない道を車で走って1時間足らずで北京空港に着いた。スモッグがずっと垂れこめていた。午後、北京空港を飛行機で飛び立って暫くのち、下に見えるのは雲だろうかスモッグだろうか、とじっと眺めているうちに、夜の帳が急に下りた。
月曜日には晴れていたと思われるものの、あれだけのスモッグが立ち込めると、太陽の光が地表に届きにくくなり、気温が上がりにくくなっていた。スモッグのため、地表が温められにくくなると、その分、暖房器具をいっそう使うことになる。このままでは熱効率の観点からも悪循環になる。帰国後、のどの痛み、目の痛み、軽い頭痛(頭が重い感じ)が続き、脱力感・無気力感みたいなものにも襲われた。うがいをし、目を塩水で洗浄し、風邪薬を服用して、体調は回復してきている。「大量の湯を飲む」というのが中国での処方箋のようだ。中国人は誰も不平を言わない。
19日には北京マラソンが実施されたので、その時のスモッグ事情を知る人は多いようだ。19日昼間には、スモッグの中である大学新入生たちの軍事教練も小隊で敢行されていた。ある学会の会員たちは大会の休憩時間中、キャンパス見学の人たちと共にほとんど黙って見ていた。以前に聞いた話によると、天安門事件のあと、北京大学と清華大学の新入生(留学生を除く)には1年間の軍事教練が課されたが、それはあまりにも酷いということで、1-2年の内に2週間まで短縮され、それが今も続いているそうだ。また報道によれば、中国では来年1月から低品質の石炭の使用が禁止されることになっており、「灰の含有率が40%を超えるか硫黄の含有率が3%を超える低品質炭の採掘や輸入を禁止する」とのことである。この基準が適用される前の石炭を燃焼させると、灰が舞い上がって浮遊するのだろう。大気汚染対策のための規制が厳格に施行されることを望む人は多いはずだ。
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