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2014-10-23 00:00
(連載2)国際二宮尊徳思想学会について
池尾 愛子
早稲田大学教授
2013年10月20日に「現代の経済学の日本的基礎」と題して本欄に書いたように、天野為之は明治期にいち早く二宮尊徳に注目した経済学者である。西村茂樹(日本講道会会長)校定・天野謹輯の『小学修身経』(1893)の挿絵中心の入門書では、第20課「二宮尊徳」において、幸田露伴の「負薪読書」図が踏襲された。この入門書について、早くも今回のシンポジウムで、中国の若手研究者による「明治期における国定修身教材に登場した金次郎像に対する民衆の受容」と題する発表論文の中で参照されていたのを見ると、天野は中国で受け入れられそうである。
今回の私の報告では、天野編著『実業新読本』(1911初版、1913改訂)に注目した。商業教育の中身をめぐって激論が闘わされていたので、天野はこれぞ開国後の実業教育であると堂々と主張できるものにしたかったに違いない。同書の目的は、「(1)学生に質実穏健の時文を読み、かつ、文章力(綴るの力)を発達させること、(2)実業道徳および一般道徳の観念を養うこと、(3)健全なる経済上および実業上の常識を得ること、(4)特に日本の伝統と歴史を明らかにすること等にある」とされた。
開国後の経済的自由主義を生かすには、近代的制度、知識・情報を有する人材、そして道徳が不可欠であった。天野たちは、小さな利益を争って国益に背くべきではないと、海外の取引相手から信を得て、誠実な実業により利益を上げ続けることを期待した。これは日本の実業界リーダーたちの希望であり、『実業新読本』でも強調された。同書には、天野が書き下ろした文もあれば、他の著者による文からの引用もある。第4巻の第56-7課「二宮尊徳の少時(一)(二)」では、尊徳の生い立ちから最初の仕法の経験までが紹介された。つづく第58課「報徳教(漢文)」(中村正直)では、勤労、分度、推譲、「無利息融資」(低利融資)への切換えを行ったことなど、尊徳の教義と実践が凝縮された。
天野の生きた世界は、尊徳の生きた世界から大きく変わっていた。天野は、どう変わったのかと考察したに違いない。天野の実業教育の目標は、開国した日本の人々の福祉をさらに向上させることであり、そのために国際貿易、近代的銀行業や実業に携わったり、発明を生かして起業したりすることのできる人材を育成する事であった。全巻を通して、交通・通信の革命的進歩が注目され、「堪能なる技術家、老練なる職工の養成」も注目された。第1巻と第2巻では、科学技術における発明が利用されてまずは生産現場を変化させ、そして消費財の形で商品化されていくと、私たちの生活を変化させていくことが示唆された。つまり、天野は市場経済あるいは資本主義経済の長所は、発明や技術革新によって国民福祉が向上させられることであると認識していた。市場経済の目的は決して金儲けだけではない。さて中国の場合にはどうなのだろうか。(おわり)
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