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2006-12-25 00:00
イラク戦争の教訓について考える
村上正泰
日本国際フォーラム主任研究員
米国の中間選挙における共和党の敗北や、ベーカー元国務長官とハミルトン元下院議員を共同議長とする「イラク研究グループ」による報告書の発表を受けて、米国の今後のイラク政策のあり方に注目が集まっている。79項目にものぼるイラク研究グループの報告書は、イランやシリアなどとの対話を行い、外交的な圧力をイラク内部に加えながら、2008年までに戦闘部隊を撤退させるといった提案を行っている。ただし、忘れてならないのは、たとえ米国のイラク政策がこれまで失敗を重ねてきたとしても、ただ単に米軍が撤退すればいいというものではない。無秩序化するイラク情勢を放置し、テロリストの根拠地となってしまっては元も子もない。
現下の状況を目の当たりにして、我々は、軍事的手段だけで秩序の安定はもたらされないという基本的事実を改めて確認しておくべきであろう。18世紀の代表的な保守思想家であるエドマンド・バークは『フランス革命の省察』において「政府を作るのには何も偉大な慎重など必要としません。権力の座を定め、服従を教え込めば、それで仕事は上りとなるのです。自由を与えるのはもっと容易です。教導する必要は何もなく、手綱を放せばそれで良いのです。しかし、自由な政府を作るためには、言い換えれば、自由と抑制というこの対立する要素を調合して一つの首尾一貫した作品にするためには、多くの思考と、深い省察と、賢明で力に溢れ総合力ある精神とを必要とします」と述べた。
すなわち、そもそも独裁者を打倒して自由をもたらしさえすれば、そこに安定した秩序が形成される訳ではない。自由と民主主義という大義を掲げたところで、それを担う人々の努力なくしては、人間の根源的営為であり、究極の精神活動であるところの政治は成立し得ないのである。そして、もちろん秩序のためには力が必要ではあるが、力だけでも不十分である。イラク国民による統治・行政能力を向上させることなくして、イラクの安定はあり得ないのである。これまでの事態の推移が示すように、決して容易なことではないが、その具体的展望なくして撤退議論に終始してしまうことは、真の解決策を示したことにならない。
今後の国際社会においては、ならず者国家や破綻国家に対して介入しなければならない機会も増えてくるであろう。外から政治体制を変革させなければ政治的安定を生むことが難しい場合も多いが、さりとてそうした作業は圧倒的な軍事力によっても容易に実現するとは限らない。かかる困難さを十分に踏まえた思慮深くきめ細かな対応が不可欠である。米国のイラク政策の混迷は、この当たり前すぎる現実を教訓として我々にもたらしているのではないだろうか。
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