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2006-12-20 00:00
「水」と「平和」の結びつき
高橋 一生
国際基督教大学教授
「水と紛争」というテーマがこの10年脚光をあびている。筆者もその議論に参加してきた。しかし、実態を検証すればするほど「水」と「紛争」との関係はあまり密ではなく、逆に「水」と「平和」の親和性が高いことがわかってきた。「平和」という語を使うことの気恥ずかしさはあるが、現実に、「水」と「平和」という結びつきで研究課題を立てることの方が重要なのではないか、と思うようになってきた。
まず、紛争予防という「平和」の側面を考えてみる。ナイル河の上流10ヶ国とエジプトの関係は、歴史的に緊張が続いてきた。この10年ほど、徐々にナイル河利用に関し、協力関係が形成されるにつれて、この地域諸国の相互関係が改善されつつある。また、1998年から99年にかけてのマレーシアとシンガポールの間の水をめぐっての一触即発の状況も、結局は両国の協力関係を強化し、アセアンの地域協力のレベルを高めることになった。
二つめのカテゴリーとして、「水」は、「紛争」の際にも、戦争当事国間の協力を続けさせ、和平の際の一つの出発点になってきてもいる。たとえば、ナポレオン戦争の最中にライン河の自由航行協定が結ばれ、国際河川の共同管理がはじまったが、第一次大戦、第二次大戦の際にも、このレジームは基本的に守られた。また、第二次インド=パキスタン紛争の際、世銀の仲介で、インダス河の共同管理体制が作られたが、このレジームも第三次インド=パキスタン戦争の際に守られた。
三つめのカテゴリーとして、「平和構築」における「水」の重要さである。井戸、灌漑等の共同管理のために、対立していた部族間で協力関係が築き上げられつつあることが報告されつつある。平和構築の中心課題であるソーシャル・トラストの構築に水の果たす役割は極めて大きいことがわかってきた。
このようにみてみると、「水と平和」というテーマを掘り下げることが重要な課題であるように思える。水は、生命そのものであるので、それをめぐって緊張しがちであるが、それを戦争の原因にするほどには人間は愚かではないのかもしれない。今後、水をめぐっての緊張があちこちで起こるにちがいないが、それをより強固な平和への機会にすることを考えておく必要があるように思える。262の国際河川流域に世界の60%ほどの人々がすんでいる。それを平和のベルト地帯とし、平和のタペストリーを織る作業は、新年の夢として悪くはないように思える。
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