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2014-10-10 00:00
産経記者起訴に朴の“私闘”の影
杉浦 正章
政治評論家
10月9日夜のBSフジのプライムニュースで韓国検察から在宅起訴された産経新聞前ソウル支局長・加藤達也の「実態暴露」を聞いたが、聞けば聞くほど問題の核心に大統領・朴槿恵の“私闘”の影が濃厚であることを確信するに到った。起訴は、国のトップの感情が先行した民主主義国家にあってはならない報道機関へのどう喝だ。政府は、温厚な官房長官・菅義偉が「民主国家としてあるまじき行為」とこれまでの在任期間で最強の言葉を使って非難したが、誠にもっともだ。政府はこれまで朴槿恵が自ら先頭に立ったいわれのなき慰安婦強制連行プロパガンダに気おされてきたが、よいチャンスだ。ここは国連などあらゆる国際機関の場を使って、反転攻勢に出て、朴政権の理不尽さを訴える場面だ。日韓首脳会談などは当分必要ない。なぜ“私闘”であるかといえば、まず最初に加藤に電話で厳重抗議してきたのは大統領府であった。加藤によれば8月5日に「断固として法的措置を取る」と通告してきたというのだ。そのあと8日に検察の出頭要請があったというから、明らかに朴は検察に命じて“私闘”を開始したのだ。ここで説明しておくが、韓国は一見三権分立の民主主義国家であるように見えるが、その実態は検察庁が法務部(法務省)の下に位置して指揮監督されており、検察は司法というよりむしろ行政の色彩が強い。要するに大統領の言うがままに動くシステムである。加藤が検察の取り調べを受けた際の印象として「検察当局は大統領の顔色だけを見て動いている印象」と述べたことも、それを物語っている。
ただ朴は加藤に陳謝させて和解に持ち込むことを考えていたフシが濃厚である。というのも3回目の事情聴取などで検事が「被害者側と和解を進めているか」とか「謝罪の意志があるか。被害者の名誉回復のためにどのような努力をしているか」などと、しきりに和解を促すような質問を繰り返したというのだ。それは検察が起訴の理由について「加藤前支局長の記事は客観的な事実と異なり、その虚偽の事実をもって大統領の名誉を傷つけた。取材の根拠を示せなかった上、長い特派員生活で韓国の事情を分かっていながら、謝罪や反省の意思を示さなかったという点を考慮した」と説明した点でも明白だ。つまり「謝罪や反省」がなかったから起訴したのだ。検察は加藤に「あなたの記事が大統領の名誉を毀損していると告発されている」として出頭命令を出したが、告発者の氏名、告発状の内容などは全く明らかにしなかったという。筆者の勘では告発者は朴自身であるか大統領府である可能性が高い。だから出せないのだ。名誉毀損は日本では親告罪であり、告訴がないと検察は動けない。韓国の場合は「反意思不罰罪」があって、告訴がなくても起訴が可能である。しかし被害者の「明示の意思」に反した起訴はできないことになっており、大統領または大統領府が「明示の意思」を示した可能性が濃厚である。
さらに出頭命令が出されてから、在宅起訴をするまでに時間がかかっているが、これは検察が朴の意思を確かめながら事を進めた感じが濃厚である。つまり起訴に踏み切れば内外の驚がくと、報道の自由に関する批判が渦巻くことくらいは、朴も検察当局も承知している。検察が加藤に何度も謝罪の意思を尋ねたのも、朴の意向が働いている公算が強いのだ。そして加藤の陳謝しないという意思が固いことが分かり、起訴に踏み切ったのであろう。問題は法廷闘争に移行するが、最大のポイントは加藤の記事が朝鮮日報のコラムを引用しており、引用元の新聞を不起訴にしてなぜ産経だけをやり玉に挙げたかであろう。朝鮮日報の核心部分は「世間では『大統領はあの日、ある場所で秘線(秘密に接触する人物の意)と一緒にいた』といううわさが流れた。大統領をめぐるうわさは、証券業界の情報誌などで取り上げられた」である。産経も核心は「朝鮮日報のコラムではある疑惑を提示した。『秘線』とともにいたというウワサが作られた。『秘線』とはおそらく秘密に接触する人物を示し、コラムを書いた記者は具体的な人物を念頭に置いていることがうかがえる」というものだ。これを見れば明白なように、ほとんど差はない上に、加藤は伝聞情報として扱い、断定を避けている。このため加藤自身も「非常に不公平な対応である」と、検事に申し入れている。
産経は、新聞ばかりでなくその出版物からみても「反朴」「反韓」色の濃い編集をしている。しかし「風評」を記事にしたのは産経だけであり、他紙は風評には乗らないという矜持(きょうじ)もあってのことだろう。朝鮮日報で知りながら記事にしていない。産経の編集方針が記者に強く働いたこともあるのだろう。朴としても、大統領府としても、検察を使ってこの際強く産経をけん制しておこうという、意図も働いたのであろう。しかしこの程度の報道に国家が圧力をかけるのは、国際社会では独裁国家以外には考えられない。朴の感情的な私憤が大きく作用していることは間違いあるまい。利口な政治家なら産経の“挑発”に乗ることもなかったであろう。朴にとっては例によって日本批判で支持率を上げる政治の一環であろうが、韓国内の新聞論調もさすがに批判が強く、ここは見誤ったとしか言いようがあるまい。
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