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2014-09-10 00:00
安倍は増税延期で政局運営の自由度を確保せよ
杉浦 正章
政治評論家
新内閣が発足して安倍内閣支持率が高い。読売では何と64%で13ポイントも上昇している。しかしひしめく重要政策を脳裏に浮かべた場合、これが満月だと気づく。これから欠けてゆく可能性が高いのだ。とりわけ年末に消費再増税実施の判断をした場合には、長期政権路線を直撃する可能性が大きい。8%への引き上げは国民のガバナビリティー(被統治能力)が作用して、支持率への影響はなかったが、これが10%まで継続できると首相・安倍晋三が判断しているとしたら、大きな誤算だ。今回ばかりは、竹下登、橋本龍太郎などこれまでの消費増税首相が被ったのと同じ支持率急落に直面すると思う。読売新聞特別編集委員の橋本五郎はテレビ評論家クラスではただ1人落ち着いた政局観があるとみているが、消費再増税に関してはちょっと間違ったように見える。橋本はテレビで「8%へと上げるときは支持率が全く下がらなかった。希有のことである。これは引き上げを丁寧にやったからであり、今回も各方面の意見を聞くことが大切」と述べたのだ。安倍内閣が有識者の意見を聞くなどして8%に上げたことを指しているのだが、それが今回も通用すると思っているとしたら、大甘だ。意見を「丁寧に」聞こうが聞くまいが、一般国民の意識は再増税に「ノー」なのだ。
支持率を上げた世論調査で、同時に消費再増税の是非を聞いた結果が全てを物語っている。消費再増税には朝日69%、読売72%、日経63%、毎日68%が「反対」なのだ。8%への増税前は支持する回答が5割を超える調査がほとんどだった。これは財政危機に対する国民の意識が正常に働いた結果であろう。アベノミクスの出だしが順調であったことも影響を抑えた。景気好転と共に所得が上がると理解したからであろう。しかし、景気の回復が所得を引き上げ、増税のマイナスを家計から吹き飛ばすという期待は夢と潰えた。4-6月のGDPの伸びはマイナス7.1%と大幅に下落、安倍が判断の材料としている7-9月も予想のようなV字回復は見込めず、災害多発もあってめろめろに悪化することが予想されている。一般国民も景気の所得への反映は夢幻のごとくなってきた。それどころかガソリン価格の高騰、電気料金の値上げ、輸入食品の値上げなど物価高騰が消費者を直撃し、消費低迷の悪循環を招いたのだ。国民は増税と物価上昇という二重苦に直面し、肝心の実質賃金の上昇などとても見込めない状況だ。
ちょうど橋本龍太郎が消費増税を断行したときと似てきた。橋本はたった1%の増税で、デフレに輪をかけるという失政をしてしまったのである。今でも覚えているが橋本は2001年の総裁選出馬に当たってホームページで、財政再建を急ぐあまり経済の実態を十分に把握しないまま消費税増税に踏み切り、結果として不況に陥らせたことを謝罪しているのだ。橋本は「私は平成9年から10年にかけて緊縮財政をやり、国民に迷惑をかけた。私の友人も自殺した。本当に国民に申し訳なかった。これを深くおわびしたい。財政再建のタイミングを早まって経済低迷をもたらした」と陳謝している。緊縮財政とは言うまでもなく消費税引き上げである。ことは増税だ。謝って済むような問題ではなく、謝るなら退陣すべきなのである。要するに8%への引き上げ時と異なり10%への引き上げは、安倍を直撃して支持率を大幅に下げる要素となるのである。そもそも1内閣は増税1回が能力の限界なのである。それを3%引き上げて、1年半でまた2%などという力が継続するだろうか。要するに政治のエネルギーは限られていることを理解すべきである。安倍には消費税の他にやるべき重要課題が山積している。
集団的自衛権は関連法案が出来なければ仏作って魂入れずとなる。原発再稼働も一つひとつの原発再稼働にいちいち首相が出ることはないが、最初となる川内原発だけは首相判断が必要だろう。極東における安保体制の確立と対中、対韓外交も喫緊の課題である。そして最大の課題はアベノミクスの成功である。安倍が年末に再増税を判断したら、どうなるか。国民の支持は離反し、政権の弱体化を招き、これら重要課題の処理に影響を及ぼすのである。コンビニで小さな買い物をする度に重税感を覚える国民の政権支持率は、減ってゆく一方なのである。財務相・麻生太郎などがノーテンキにも「法律通りに実施」と述べているが、責任は首相がとり、自分は漁夫の利の思惑がちらつく。消費税法には付則18条の景気条項があることを忘れてはならない。景気条項を発動して延期すれば良いのである。少なくとも1年延期すれば、実施は再来年の10月となる。衆参ダブル選挙なら再来年夏だから、その間安倍は政局・政策運営の自由度を確保出来るのだ。安倍は橋本のように陳謝して退陣する道を選んではならない。アベノミクスを成功させるためにも、増税は延期が必要である。ハゲタカファンドの日本売りなどは、対策次第でどうにでもなる。
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