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2006-12-11 00:00
問われるロシアの異質性とサミットの意味
村上正泰
日本国際フォーラム主任研究員
旧ソ連諜報機関のKGB及びその後継組織であるFSB出身のリトビネンコ元中佐の不審死事件が注目を集めている。ロシアをめぐっては最近同様の事件が相次いで発生しており、10月にはジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤ氏が暗殺されている。いずれもプーチン政権に批判的であった人物が殺害されたこれらの事件にプーチン政権がどこまで関与しているのか真相は分からないが、ロシアで発生しているこうした事態をほとんど報道してこなかった我が国のマスコミも遅ればせながらリトビネンコ事件については大々的に報じている。被害者がスパイであったことが関心を引いているのかもしれないが、決して単なる興味本位から論じるべきではない。我々は、こうした状況が蔓延しているロシア社会の実態を直視しなければならない。事の本質は当フォーラム伊藤憲一執行世話人が喝破されているように「力治国家」ということに尽きると思うが、ロシアという国家がいかに我々とは異質であるかを再認識しておくべきであろう。
振り返れば、今年はロシアがサミット議長国を務めた年であり、6月にサンクトペテルブルクにおいてロシアで初めてのG8サミットが開催された。サミット議長国という立場と政権批判者の相次ぐ暗殺事件というのはおおよそ相容れるものではない。たしかに、ロシアは国連安保理の常任理事国でもあり、政治的・外交的な存在感を示している。しかしながら、法と正義を軽視した「力治国家」であるロシアは、自由や民主主義といった価値観を共有しておらず、我々とは随分とかけ離れた存在であると言わざるを得ない。
これに加えて、ここで私が指摘しておきたいのは、経済面を見てもロシアと他のサミット参加国とは利害を著しく異にしているということである。おそらく当事者以外はほとんど気にしていないと思うが、経済・金融問題を討議する財務大臣会合については、G7プロセスとサミット・プロセスとが明確に区別されている。すなわち、ロシアがサミットに正式参加するようになった後でも、年3回の頻度でG7による財務大臣・中央銀行総裁会合が開催され、年1回だけサミット首脳会合の直前にG8の枠組みで財務大臣会合が開催されてきた。
そもそもロシアはOECD加盟国でもないし、ましてやマクロ政策協調や為替問題、開発援助などを共通の土台の上で議論をできる立場にない。近年、BRICsのひとつとしてロシア経済にも注目が集まっているが、ロシア経済が好調なのは決して市場経済が機能しているからではなく、国際的なエネルギー価格の高騰の影響を受けてのことである。いまだ市場経済が定着しておらず、経済成長の利権を貪ろうとする動きも目立っており、経済環境に構造的な問題を抱えている。ロシアと他のサミット参加国では経済構造や利害関係に大変な違いがあり、全く逆の立場にあることは明白である。
私が数年前に財務省でG7を担当していた時、いずれロシアにサミット議長国の順番が回ってくることを視野に入れ、ロシアとの関係をどうするかが議論になった。我が国はロシアのG7プロセスへの全面参加に強く反対したが、経済面の異質性のみならず、露骨にあらわれている「力治国家」としてのロシアの本質を見れば、そもそもロシアがサミットに参加していること自体にどのような意味があるか疑問である。逆に言えば、かくも異質なメンバーを含んだサミットとはいかなる集まりなのかという問題でもある。サミットの形骸化が言われて久しいが、サミットにおけるロシアの位置付けは今一度問い直されてもよい問題ではないだろうか。
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