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2014-09-04 00:00
寄稿の掲載拒否、朝日新聞の乱心
中村 仁
元全国紙記者
慰安婦報道の検証問題で、朝日新聞がすっかり、おかしくなってしまったようです。落ち着いて、落ち着いて。冷静な判断能力を早く取り戻さなければなりません。ジャーナリストの池上彰氏(NHK出身)が朝日新聞に連載している新聞論評の掲載を、拒否されたことに腹をたて、以後、連載を打ち切ることを申し入れました。この騒動をめぐり、わたしは3度、驚くことになったのです。はじめは、第一報(9月3日の朝刊)です。朝日が慰安婦報道を検証し、8月に大々的に組んだ特集が今回の新聞論評のテーマとのことでしたので、「これはこじれるぞ」と思いました。池上氏はバランスがとれ、わかりやすい文章に人気があり、偏った思想の持ち主ではありません。中立的、客観的なスタンスを取りながら、肝心なところでは、ズバッと物申すというタイプです。
新聞が寄稿の掲載を拒否する、とくに今回の場合は、連載時評ですから、掲載拒否にはよほどのことがあったのだろう、と思いました。「それにしても一体、何があったのか。言論の自由をみずから否定する行為にあたる。とんでもないことをしたものだ」という驚きでした。わたしも8月13日のブログ「朝日の罪、戦争の罪」で、この検証報道および朝日新聞の問題点をテーマに書きましたので、大きな関心がありました。第一報の直後、それもなんと翌日、朝日新聞に「池上さんと読者にお詫び」の記事(9月4日の朝刊)が載り、朝日はこの措置を撤回し、池上氏の原稿を掲載するとのことでした。「朝令暮改とはこのことだな」。これが二度目の驚きです。
恐らく読者から抗議が殺到したほか、社内でも大問題になったのでしょう。そこでどんな原稿なのかに関心が募り、さっそく記事(4日の朝刊)を読んでみました。朝日が掲載拒否するような内容では決してないのです。わたしが自分のブログで書いたのとほとんど同じ指摘でした。「なんでこのような原稿まで掲載拒否したのか」と信じられず、これが3度目の驚きとなりました。「過ちを訂正するなら、謝罪もすべきではないか」「32年も前の報道をなぜ、これまで放置していたのか」「『記事を取り消す』といいながら、どう取り消すのかが分らない」「他社の報道ぶりを引き合いに出すのは、潔くない」こうした指摘はいまや、珍しくも新しくもありません。池上氏なら、なぜもっと皆が気がつかない切り口で朝日を批判しないのだろうかと、私は不満に思ったほどです。要するに、マスコミ史に残り、朝日新聞にとっても最大の失敗である慰安婦報道のゆがみを、朝日新聞紙上に載せるわけにはいかない、ということなのでしょう。朝日批判のすさまじさに気が動転してしまったのでしょうか。
どうも朝日新聞は冷静さを、すっかり失ってしまったようです。このような掲載拒否をどのレベルで決めたのでしょうか。朝日の重大事にかかわるテーマだけに編集局長、編集担当(他社でいう編集主幹)、場合によっては社長に事前に説明し、判断を仰ぐべき問題です。検証報道班(というのがあれば)だけの判断で、暴走してしまったのでしょうか。そうだとすれば、朝日は組織としての意思決定のシステムに多大な問題があります。今もって、朝日の社長の釈明会見すらありません。朝日は経営と編集の分離に何かしらの内規があるようにも聞いております。今回の問題は、そんな内規どころの話ではありません。日本の近現代史の形成、海外からの対日評価、日中との深刻な緊張がかかわっています。マスコミ史上、前例のないほどの広がりをもった事件です。社内の動揺も激しいことでしょう。社長みずからが、矢面に立たなければなりません。
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