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2014-08-19 00:00
(連載2)強硬策に展望はあるのか
尾形 宣夫
ジャーナリスト
立ち入り禁止区域にはブイ(浮標灯)とフロート(浮き具)を張り巡らされた。反対派のカヌー、小舟でフロートを越えることは難しい。大体、近づいただけで数人から10人ほどの保安官が乗った黒いゴムボートが素早く駆けつけ、立ち退くよう警告する。保安官が乗ったゴムボートは数十艇、沖合には巡視船艇が待機する。辺野古のエメラルドグリーンの海を海保のゴムボートが頻繁に行き交う光景は、まるで米軍の演習を思わせる。「辺野古移設は米国との約束。あらゆる手段で万全を尽くす」が安倍政権の考えだ。移設作業を急がせるのは11月の知事選の前に既成事実を積み上げ、知事選の結果に左右されない状況を固める。そして、来年3月までの今年度内に埋め立て作業を具体化する工程を描くからだ。年末をめど再改定される日米防衛協力のための指針(ガイドライン)に集団的自衛権行使を前提とした日米連携や自衛隊の役割が盛り込まれるはずだ。離島防衛態勢の強化も入るだろう。辺野古移設の具体化はガイドラインを補強する。安倍首相が言う積極的平和主義のためには、辺野古を外すわけにはいかない。
知事選は現職の仲井真氏が3選を目指す。しかも堂々と「辺野古がベスト」と断言しての出馬だ。現職が選挙で過去の「行政結果」を問われるのは当然だが、辺野古移設を認めた仲井真氏に対する県民の反発は少しも沈静化しない。「移設反対」を基本とする公明党県本部の動向もはっきりしない。公明党県本部の支持が得られず大敗した1月の名護市長選は政権にとって悪夢だった。だから、政権としてはできる限り辺野古移設を争点から外し経済振興に重きを置きたいし、その考えは今でも変わらない。
辺野古移設反対派が擁立しようとしている那覇市長の翁長雄志氏は、もともと自民党県連の幹事長を務め、4年前の知事選では仲井真当選を演出した根っからの保守だ。この時の仲井真氏の公約は「辺野古移設反対」だった。翁長氏は近く、正式に出馬表明する。自民党那覇市議団と県議会野党各党、それに経済界の有力企業グループが連携して現職と戦う、異例の知事選となる。翁長氏は辺野古移設に反対し、米軍基地を沖縄に押し付けている「オール日本」に対し「オール沖縄」で立ち向かおうと、沖縄のアイデンティティーを呼び掛けている。政権をイライラさせるのは、仲井真氏の強気な言葉が出る度に、オール沖縄論が広がってきていることだ。翁長氏に、とことん世論の醸成を待つ戦術があるかどうか不明だが、現状を見る限り満を持す翁長氏に追い風が吹いていると言っていい。
知事選をいやが上にも熱くする「辺野古」の対立がこのまま進むようだと、沖縄の反基地感情は1995年秋に起きた米兵による少女暴行事件当時を再現させ、修復不能となるだろう。不信感に覆われた沖縄の基地問題をどうにか潜り抜けてきたのは、財政による経済振興の提供だった。ところが、今度ばかりはその効き目が疑わしい。「抑止力」「地政学」という安全保障論だけが先行し、住民の胸の内を知ろうとしなかったツケが表れたのである。海上保安庁の船艇が遊弋するさまは、米軍の問答無用が通った本土復帰前の沖縄を思い出させる。海上保安官にとって反対派は、赤子の手をひねるほどにたやすいだろう。だが、それをしては何も解決しない。事態を悪くするだけだ。残念ながら、今の政権には真の意味で「沖縄を知る」政治家はいない。安倍流の強気な外交安保論に物申す声も聞こえない。これ以上、地元との亀裂を広げてはならない。ボーリング調査を強行するよりも地元との対話を始めるべきだ。「丁寧に説明し理解してもらう」と言ったのはほかでもない、国なのだから。(おわり)
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