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2014-08-05 00:00
尖閣問題の「棚上げ論」について
津守 滋
立命館アジア太平洋大学客員教授
中国が武力を使ってまでも尖閣を取得しようとの構えを見せている中で、いかにして武力紛争を回避すべきか。その方法の一つとして、この問題の棚上げで合意すべきとの意見が出されている。この論者は、1972年の日中国交回復時に、両国間で棚上げにすることで「暗黙の了解」があったとする。当時外務省条約課長であった栗山尚一氏(後の外務次官)は、田中角栄・周恩来会談で、明示の合意はなかったものの「暗黙の了解」があったとする。この会談で田中首相が「尖閣諸島についてはどう思うか」と聞いたところ、周首相は「この問題については今回は話したくない。今これを話すのは良くない」と答えたとされ(以上公表済の外交文書)、これがその根拠とされる。
しかしこれをもって「暗黙の了解」とまで言えるのか、吟味を要する。このときの田中首相の態度は、日本政府のそれまでの基本的立場(「尖閣諸島が日本国の領土の一部であることは自明であり、国際法上領有権問題は存在しない」)を踏まえてのことで、「もし中国がこの問題で議論を望むならば、いつでも応じる用意がある」との意図を伝えたかったと解釈すべきである。いずれにしろ「領有権問題は未解決」と田中首相が考えていたなどとは、到底考えられない。
翻って、ありうべき武力紛争を避けるため「今後日本は現状変更を一方的に行わない」との政策をとり続けることにより、結果的に棚上げの状態になれば、それは「暫定的解決」の一つの道筋にはなる。ただし、中国側が1992年の領海法制定のように、一方的に現状変更の措置をとるならば、これに対し日本が対抗措置をとるべきことは当然である。そして今後中国がこの問題について協議したいというのであれば、日本の基本的立場を踏まえていつでも協議に応じればよい。
もし国際司法裁判所(ICJ)で決着をつけたいというのであれば、堂々と受けて立てばよい。ことさらこの段階で「棚上げ」について合意(暗黙の了解を含む)を図ろうとするならば、日本政府が「領土問題は未解決」との立場をとるにいたったとの誤解を与えることになる。その意味での「棚上げ論」は、取るべき政策ではない。
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