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2014-07-10 00:00
中国は反日教育の前に反核教育をせよ
杉浦 正章
政治評論家
昔、名優森繁久弥が「中国人のマンマンデ」を説明していたのをラジオで聞いた。広辞苑によるとマンマンデとは「ゆっくりしたさま」を指す。中国人の大人(たいじん)ぶりを説明して、森繁はNHKアナウンサーとして満州に赴任していた頃の思い出を語る。「家を新築して、中国人を招待したが、子供が白い壁にいたずら書きをした。私が子供を呼びつけてしかろうとしたら、中国人の客は『森繁さん、近くで見ないで、遠くから見ないと、分からないよ』と、止めた。中国人の気持ちが分かった気がした」と述べていた。これを聞いて、中国人の大局観とはそういうものかと思った。マンマンデぶりが好きになったものだが、今の中国を見ると心が痛む。その鷹揚なる性格がかけらも見えなくなってしまったからだ。
逆に、金で総入れ歯をした、かつての日本の“成金”そっくりである。物欲の固まりとでもいうか、カネで横っ面を叩けば物事は動くと思っているような傍若無人の振る舞いばかりが目立つ。南シナ海ではベトナム沖にまで進出して石油を掘削し、ベトナム漁船を体当たりで沈没させる。東シナ海では自衛隊機に戦闘機が30メートルまで接近して、ドイツの新聞をして「驚きのあまり息が止まった」と書かせる。鄧小平が主張した「中国は国力の無いうちは、国際社会で 目立った行動をせずに、じっくり力を蓄えておこう」という韜光養晦(とうこうようかい)路線をかなぐり捨てると、こうなるかという見本であり、まさに「陶器店に迷い込んだ象」のような振る舞いである。中国国家主席・習近平は7月9日から始まった第6回米中戦略・経済対話で「中米が対抗すれば両国と世界に災難をもたらす。広大な太平洋には中米二つの大国を受け入れる十分な空間がある」と発言した。昨年の訪米で提案した「新型大国関係」の核心であるが、これを9回も繰り返したのだ。まるで明の永楽帝が鄭和に大船団を組ませて南洋・インド洋を制覇させたころのような帝国主義思想の復活であり、日本などは眼中にないといいたいのであろう。米国はこれに応ずるどころか、日米、米豪の安全保障上の結びつきを強め、誇大妄想の習近平帝の前に立ちはだかっている。「新型大国関係」が初日の対話ですれ違いの様相を見せたのは当然である。
上がそうなら、下はもっとひどい。あきれたのは中国内陸部・重慶市の共産党の青年組織「共産主義青年団」系の週刊新聞「重慶青年報」の3日付けの最新号の報道だ。「日本は再び戦争をしたがっている」というタイトルとともに、日本への原爆投下を連想させる全面広告を掲載した。日本の地図の広島と長崎にきのこ雲を描き、原爆投下を連想させている。広島・長崎の被爆者を愚弄したばかりではない。問題は地図に東京の地名を書き込んで、「次は東京に原爆が落ちる」と暗示をかけている点だ。まさに我が国は原爆を保有する大国であると脅迫しているつもりなのだろう。加えて同紙は「我々は過去に日本に友好的すぎたのではないか」というタイトルの評論も乗せて「過去40年間、中国の対日政策は、感情や行動面での寛容が過ぎた。警戒感を高めなければならない」などの主張を繰り広げている。官房長官・菅義偉が「誠に不見識で、耐えがたい苦しみを経験した被爆者と家族の感情を逆なでし、唯一の核被爆国として容認できない」と述べ、中国に厳重抗議したのは当然だ。まさに不見識の極みであり、大国どころか狭隘(きょうあい)なる「見識小国」そのものだ。
上が右向けば、下も右向く教育が、徹底しているとしかいいようがない。その反日教育の風潮は幼児教育にまで徹底している。3か月前の毎日新聞に「日本人、殴らないで!」と題する記事が掲載された。北京市中心部の繁華街のDVD販売店で、小学1年生の女の子が、話しかけてきた。「中国語が変ね。どこの国の人?」と聞くから「日本人だよ」と妻が答えると、女の子は「日本人なの!? 殴らないで!」とおびえた表情で後ずさりしたというのだ。「日本人はどうして殴ると思うの?」と問いかけたが、女の子は「日本人なのになぜ殴らないの?」と不思議そうに尋ね返してくるばかりだったという。自分がやっていることをさておいて、習近平は歴史認識問題を繰り返すが、徹底した反日教育の下地があるからこそ、国内で通用するのであろう。ゴーストタウン「鬼城」の建設ラッシュを演出して、GDPで日本を追い越したまではよかったが、いまや土地バブルははじける寸前だ。国内各地で争乱が頻発し、国民の目をますます外に向ける政治を、習が選択することは目に見えているが、それでごまかし通せる時期は過ぎつつあるような気がしてならない。反日教育のまえに、反核教育が必要になってきたとも言える。そうでなければ、災いは吾が身に降りかかると覚悟した方がよい。
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