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2014-06-27 00:00
“バブル危機”で対日姿勢変更迫られる習近平
杉浦 正章
政治評論家
アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開かれる11月に、不動産バブルが崩壊して金融危機に陥ったらどうなるか。これを考えたら恐らく中国国家主席・習近平は、夜も眠れないのではなかろうか。APEC首脳会議は習近平が主宰する初めての大国際会議である。中国政府はオリンピック基準で北京市を整備するよう指示するなど、大変な力の入れ方である。会議の成功は習のメンツとリーダーシップがかかっており、そこにバブル崩壊がぶつかっては目も当てられない。経済協力会議どころか中国支援国会議になりかねない。そこに気付けば会議までの5か月間で、対日関係の改善を図ろう、と普通の政治家なら考える。そうともとれる情報を6月26日共同通信が配信した。その内容は、中国共産党の中央対外連絡部長・王家瑞がAPEC首脳会議の際の日中首脳会談について、「中国としても歩み寄りの雰囲気をつくりたい。双方が努力して会談を行うぞという雰囲気が大事だ」と意欲を示したというのだ。
日中関係筋の情報と言うから、恐らく情報源は日本の北京大使館筋か、中国の外交当局であろう。共同電は「社民党の吉田忠智党首と23日に行った会談で語った。北京APECまで5カ月を切り、強硬一辺倒だった中国が、日本との対立の緩和を模索し始めた可能性がある」と報じている。「王部長は各国との政党間外交を仕切る立場にあり、発言は最高指導部の意向を反映しているとみられる」とも伝えている。この発言から見る限り突っ張っていた中国が軟化の兆しを見せ始めたとも受け取れる。だとすれば、その理由はなぜか。やはり不動産バブルが崩壊の過程に入ったことがまず第一に挙げられるのだろう。野村證券の中国経済に関するリポートでは「中国の不動産バブルの調整は起こるかどうかではなく、どれほど深刻になるかのレベルに達している」のだという。中国の不動産業界からは悲鳴に近い声が聞こえてくる。不動産最大手の万科企業総裁・郁亮は、国内不動産業界について「黄金時代はすでに終わった」と発言している。また不動産開発大手SOHO総帥の潘石屹はなんと「中国の不動産市場は今、沈没寸前のタイタニック号だ。もうすぐ氷山にぶつかる」と発言したという。
もうすぐ氷山にぶつかるということはどういうことか。バブル崩壊とは1990年代初めの日本や、2008年のリーマン・ショック後の米国の例を見れば、土地価格が急落する中で金融機関が巨額の不良債権を抱え込み、信用不安に発展することを意味する。従って筆者は、中国の現状はバブル崩壊の過程にあるのであっても、崩壊にはまだ到っていないと思う。そこに立ち至るようなら共産党中央は、恐らく人民銀行などを使って国有企業や地方政府に不動産買い上げ資金をぶち込む、という強行手段を取る可能性がある。取り付け騒ぎは何としてでも防ぐ必要があるからだ。さらに中国が保有する400兆円近い外貨準備も銀行に回す可能性がある。習近平はおそらくAPECまでにバブルがはじけることは何が何でも食い止めようとするに違いない。加えて習近平は、APECに向けて国内の治安維持にもに忙殺されるだろう。4月の自らのウルムチ視察の際のテロや5月のアジア信頼醸成会議に合わせたテロは、明らかにウイグル族によるテロが場当たり的ではなく、組織化されたものであることを物語っている。当然テロリストはAPEC開催に合わせたテロを狙うだろう。北京で発生すればやはり習近平のメンツは丸つぶれとなる。
こうした経済、治安両面における事態に直面して中国は、これまで通りに海洋覇権主義を前面に出して孤立するような路線を維持し続けるのだろうか。APECの主要加盟国である米国、日本、フィリピン、ベトナムと対峙したままでは会議の円滑な運営も不可能だろう。APECで失敗するとはどういうことかと言えば、5月のシャングリラ会議を“踏襲”してしまうことだ。中国軍首脳が完全に孤立して、首相・安倍晋三演説が喝采を受けたこととおなじような状況に陥ることである。紛れもなく南・東シナ海での中国の覇権が東南アジア諸国の拒絶にあったのであり、これをAPECまで引きずることは避けたいに違いない。共同の記事は、こうした中で報じられたのであり、少なくとも政府中枢では対日柔軟路線が語られ始めている事を物語るものであろう。今後習近平が本気で安倍との首脳会談に向けて柔軟姿勢を示すかどうかを見極めるには、7月3日の習の訪韓が焦点となる。朴槿恵と一緒になって歴史認識などで対日強硬路線を打ち出すかどうかである。安倍は現在のところ習近平との首脳会談を急ぐ必要はない。しかし習近平は、るる述べてきたように急がなければならない事情が山積してきているのだ。
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