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2014-06-11 00:00
国際経済学会ヨルダン大会に参加して
池尾 愛子
早稲田大学教授
6月6-10日、国際経済学会(または国際経済学協会、IEA)の第17回世界大会が、ヨルダンの死海沿いにある国際会議センターで開催された。中東・北アフリカ(MENA、ミーナ)からの出席者が多かったが、ヨルダン以外から、経済学者、国際通貨基金(IMF)や世界銀行を含む国際機関、各国中央銀行や金融庁、シンクタンクのエコノミストなどの参加者が600人を超えたとされる。J・スティグリッツ会長の所属する米コロンビア大学のグローバル・センターやアンマン・ブランチ、同大卒業生たちが協力していたほか、スポンサー協力団体に日本の国際協力機構(JICA)が加わっていたのが目についた。大会直前にはJICA関連のセミナーも近くのホテルで開催されていた。
政策に焦点を絞って組織されたセッションも4つほどが同時に並行して開催されていた。そのほか、テーマ別の並行セッションで多かったのは、開発・発展24、マクロ経済学14、国際経済学12、労働経済学11で、金融、産業組織、公共経済学、行動・実験経済学、経済史等々と多岐にわたる。理論モデルの構築やデータを駆使する実証研究が基本スタイルとなるが、宗教や文化、各国経済を扱う際には、写真や風刺画が効果的に使われたのが印象に残った。並行セッションなしの基調セッションや私が出席したセッションからの感想になるが、所得格差(inequality)にふれる報告が多く、これが隠れたテーマになっていた。グローバル化は様々な機会を私たちに与えてきたが、格差をもたらしたことも共通認識になっていた。
エネルギー問題にふれる報告も多く、基調セッション「MENAにおける補助金改革と衡平性のジレンマ」では、ずばり中東・北アフリカのエネルギー政策改革が議論された。石油輸出国の多くでは衡平性に叶うと考えて補助金を出してエネルギー料金を低めに抑えてきたが、もはや持続可能ではなくなり、民主主義国では選挙公約に入れることはできない(入れてはいけない)状態になっているとされた。MENAで最もエネルギー料金が安いのがイラン、最も高いのがヨルダンである。ヨルダンの電力料金体系は、使用量が増えるごとに段階的に単価が上がる方式を採用しているようである。エネルギー補助金政策が、実際は高額所得者に対する補助金として作用することも、情報・知識として共有されるべきことが強調された。
既に報道されているように、日本銀行の黒田東彦総裁が金融政策の基調セッションで、「非伝統的金融政策の実践と理論」と題して講演した。1997-8年の東アジア通貨危機の当時、黒田総裁は大蔵省国際金融局長として、近隣諸国での危機発生と「伝染」に対処していた。一方、スティグリッツ会長は世界銀行のチーフエコノミストであったにも関わらず、姉妹機関IMFが緊急融資パッケージのコンディショナリティとして東アジア3国に課した引締政策や構造改革は不適切であると厳しく批判したのであった。黒田総裁の講演の日本語訳は日本銀行のウェブサイトに掲載されている(http://www.boj.or.jp/announcements/release_2014/rel140608a.htm/)。東アジアの産業経済研究も参照されるようになっている。例えば、MENAでは東アジアに比べると、「サプライ・チェーンの展開が少なく、経済が統合されているとはいえない」、「製造業が育っていない」、また「石油・ガスの生産や石油化学では、サプライ・チェーンが展開しにくい」といった論点が、会議報告から聞き取れた。南アジアにあるインド出身の経済学者たちの活躍も目立っていたのだが、3年後の世界大会は新会長T・ビースリー氏(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、LSE)のもとインドで開催される予定であると発表され、なるほどと納得した次第である。
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