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2014-06-05 00:00
(連載2)対露制裁と北方領土交渉
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員
プーチンは近年、北方領土問題への姿勢に関して「ヒキワケ」とか「両国外務省に話し合いをさせよう」など気を持たせる発言をしたが、それ以上何の具体策も出さないので、日本側が失望し、白けきっていることを知っている。そこで、対露制裁に加わらせないためにも、例によってまた「気を持たせる」発言をした。つまり、1956年の宣言の2島(歯舞、色丹)だけでなく、「4島全てが交渉の対象である」と述べたのだ。そして例によってまた日本のマスコミはこの部分に注目したが、同時に述べた強硬発言については何も報じていない。プーチンはこの発言と合わせて次のように述べているのである。
「56年宣言では2島引き渡し問題について検討する用意があると述べられている。そこには、どのような条件で(引き渡されるのか)、またこれらの島の主権がその後どちらのものになるのかについては、何も述べられていない。ただ、引き渡しについて述べられているのだ」と。ここには2つの重大な歪曲がある。ひとつは、宣言では平和条約締結後に「歯舞諸島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する」と明確に述べられており、「引き渡し問題について検討する用意がある」ではない。プーチンはあくまで、時間稼ぎの話し合いを延々と続けるつもりなのか。
もっと深刻な発言がある。それは、2島の「引き渡し」も条件次第であり、しかも引き渡し後も、主権はロシアに残す可能性を示唆していることだ。つまり「引き渡し」は返還ではなく、しかもその引き渡しも賃貸など条件次第、と言っているのである。さらに「ヒキワケ」については、これまでは「双方に受け入れ可能な解決」と述べていたが、今回はこれまで主張しなかったこと、つまり「お互いに相手の諸利益を損なわない」ということを、新たに述べた。ロシアが日本の主権を侵害しながら、ロシアの利益を損なわない解決とは「返還はしない」ということと同義語ではないか。プーチンは「交渉を続ける用意はあるか?ロシアには用意はある」と述べているが、解決ではなく、延々と交渉をつづけること自体を目的としているとしか思えない。
わが国には、ロシアの外務省は北方領土問題に強硬姿勢だが、プーチン自身は解決に前向きだとの見解がある。プーチンはこれまで「両国の外務省に話し合いをさせましょう」と言ってきた。もちろんプーチンはラブロフ外相など外務省が北方領土で強硬論だということを百も承知でそう言っているのだ。つまり、外務省同士の話し合いでは何の解決も出来ないことを知った上で、そのようなことを言っているのである。解決のために必要なことは、いまや両国首脳の決断だけである。もしプーチンが本気で解決の意欲を持っているなら、まるで他人事のように、「外務省に云々」と言うはずはない。すでに、両国外務省は何十年も話し合いを続けてきた。プーチンが決断を避けて延々と「外務省に話し合いをさせよう」と言っている意味については、もはや説明は不要だろう。プーチンが、今回4島が交渉の対象だと、これまで言わなかったことを言ったのは、注意をひくが、その理由ももはや明白だ。日本がプーチンの「ヒキワケ」発言などに今では白けきっており、馬の前にぶら下がる新しい「ニンジン」が必要だったのである。秋にプーチンが訪日したら、北方領土問題が前進するというのは、まったくの幻想である。(おわり)
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