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2014-05-22 00:00
対米けん制の習近平構想は空振り
杉浦 正章
政治評論家
テレビで見ていると、参加各国首脳らはまるで遣唐使が唐の玄宗(げんそう)皇帝に謁見しているようだった。上海で開かれた「アジア信頼醸成措置会議」(CICA)は、中国国家主席・習近平の“偉大さ”を国内的に印象づける“演出”がなされていた。中国で国家主席が基盤を整えるには2年かかるといわれるが、これをみるとまだその過程にあることが分かる。習近平はCICAを「非欧米・反日米同盟」として発展させることを意図した気配が濃厚である。しかし実態は、中露を除けば、GDP下位の国々による中国の“援助期待諸国連合”で、いわばマイナーリーグの感は否めない。その内部も同床異夢であり、習近平の新安保構想も空振り気味だ。習近平は会議の席上、米国による包囲網形成の動きを強くけん制し、「新アジア安全観」と位置づける安保構想を打ち出した。安全保障を巡る新しい秩序を中国主導で作ろうという姿勢である。しかしその発言の内容は、これほど身勝手な主張があり得るのかというほど唯我独尊思想に貫かれている。
「我々は主権と領土保全の尊重、内政不干渉の原則を順守し、平和的協議で争いを鎮静化する」と主張するが、南シナ海で公船が取り囲んで石油を掘削し、東シナ海で勝手に防空識別圏を敷設して、日本の領海侵犯を繰り返す国が言える言葉かと言いたい。また「アジアの安全は結局、アジアの人々が守らなければならない」と述べたが、アジアの安全を危機におとしめている唯一無二の国が中国であり、アジアの人々は逆に中国から国を守らなければならないのが実態だ。こういう発言は日本では「盗っ人猛々しい」という。習近平の狙いには、中露と中央アジア4か国で構成する上海協力機構なみの国家連合にCICAを発展させ、NATOや日米同盟に対抗する軍事ブロックを形勢しようという思惑がちらつく。習は昨年6月の訪米で「新型大国関係」を提唱し、日本無視で太平洋を米国と2分割する構想を打ち出した。オバマは一時はぐらついたが、最近では東南アジア歴訪で強い対中けん制の動きに出るなど、「新型大国関係」は棚上げにされた形だ。
中国は南・東シナ海で強い動きに出ているが、これが逆に米国と、日本、フィリピン、オーストラリアの同盟関係を強め、やぶ蛇となった感が濃厚だ。時を同じくするように米国務次官補・ラッセルは5月20日、議会下院外交委員会で証言し、南シナ海の領有権問題を巡って、中国とベトナムやフィリピンが対立を深めていることについて、「中国が石油の掘削作業を進めようとするなど、一方的に現状を変更しようとしていることが、問題だ」という認識を表明した。ラッセルは「中国の一方的な行為に対する国際社会の厳しい非難は、必ずや北京の政策決定者の考えに影響を及ぼすだろう」と述べ、国際社会が一致して中国の行動を非難するよう訴えており、米中は同日まさに非難合戦の様相を呈した。習近平はCICAを米国と対峙する組織に発展させたいのだろうが、会議を見る限り内部は呉越同舟といってもよい。
まず加盟国ベトナムは、国家副主席・グエン・ティ・ゾアンが「国際法を重視し、武力行使や威嚇を行わないとの原則が重要だ。地域の紛争がその精神に基づいて解決されることを望む」と、ベトナム沖での石油掘削に強い懸念を表明した。さらにウクライナ問題でも反ロシア的な提案が出された。「ウクライナ情勢の沈静化に向けたロシアの努力の必要性を宣言する」ことを上海宣言に織り込む案が出され、タス通信によるとロシアの主張で削除されたという。日本も北京大使館の公使・堀之内秀久がオブザーバーとして出席して、国際法に基づく紛争解決を訴えた。加盟国である韓国も対米関係を考慮すれば、無原則な対中接近は困難だ。どうやら習近平の思惑は空振りに終わりそうな気配だ。ただプーチンが「何世紀にもわたった両国の歴史の中で最も友好的な関係であると言っても過言ではない」と述べているとおり、中露関係は「同病相憐れむ」的な意味で良好になった。しかしその性格は、紛れもなく「力による現状変更連盟」という“悪の枢軸”であり、国際社会からは理解されないであろう。今後習近平は7月の新興5か国(BRICS)首脳会議、9月の上海協力機構会議、11月のアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議などを通じて、対米プロパガンダの方向を強めるものとみられ、東南アジア情勢が緊迫の流れから離脱することは難しいものとみられる。
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