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2014-05-17 00:00
(連載3)軍事力がのさばる時代への備え
中村 仁
元全国紙記者
ここでちょっと気になるメディアの表現に触れておきます。「中国は実効支配を強める構えだ。フィリピンのジョンソン南礁で土砂を搬入し、埋め立てをしている」とし、その写真が新聞に載っていました。ひどいことをしますね。これなどは「実効支配」ではなく、せめて「一方的占拠」と書くべきでしょう。やたらと「実効支配」という言葉を使うのは、いかかでしょうか。国際法上は、島などの領有権は「実効支配」している側に認めることになっています。古くから「実効支配」をしているならともかく、にわかに強力な軍事力をちらつかせて、「支配」を強行する行為は「暴力的支配」ですよね。メディアに再考してもらいたいですね。
タイでは、インラック首相が失職しました。権力を乱用して、親族を警察庁長官に登用したことに、憲法裁判所が憲法違反の判決を下したためです。違憲判決でタクシン派の首相の首が飛んだのは3人目です。2006年の軍事クーデターでタクシン政権が倒れ、妙な憲法が制定され、法の秩序、法の支配が吹っ飛び、政治的に悪用されるようになり、内政は大混乱に陥っています。タクシン一族も不正蓄財、選挙を有利にするために財政を犠牲にした農村懐柔策を繰り出すなど、ひどさは目にあまります。それにしても、軍の存在が奇妙な憲法の後ろ盾になっているのでしょうね。経済成長や民主主義の成熟という点で、東南アジアで期待されてきたタイがこんな状態ですから、中国は中国モデルに自信を深めているかもしれません。
世界は新たな混乱に時代に入りました。なにかと「米国が世界秩序の安定のために消極的だから、こういうことになる」といった主張が目立ちます。そんな不満を口にしても始まりません。日本では、集団的自衛権の憲法解釈をめぐり、必要最低限の変更さえ、なかなか進まない情勢です。ウクライナやフィリピンが防衛力、自衛力の空白をつかれたことを教材にすべきでしょう。
だからといって、欧米や日本が軍事力の増強の時代に逆戻りすることは、それぞれの国内世論が許さないし、そんなことをしたら経済が犠牲になるでしょう。それでも、紛争を仕掛けてくる相手国に躊躇させる抑止力としての軍事力は備えておかねばなりません。もうひとつは、即効性はなくとも、経済的な相互依存関係の輪を広げていき、軍事的な対立は、双方のためにならないという抑止力にすべきでしょうね。(おわり)
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