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2014-05-08 00:00
(連載1)李克強首相のアフリカ訪問から中国-アフリカ関係を考える
六辻 彰二
横浜市立大学講師
5月4日、中国の李克強首相は8日間の日程で、エチオピア、ナイジェリア、アンゴラ、ケニアの4ヵ国をまわるアフリカ歴訪に出発しました。この訪問は、欧米メディアでは関心をもって報道されています。今回の訪問は、李克強首相にとって初のアフリカ歴訪になります。中国の指導層による訪問としては、習近平国家主席が就任後初の外遊で、2013年3月にロシアとともにタンザニア、南アフリカ、コンゴ共和国のアフリカ3ヵ国を訪問したのに続きます。アフリカはかつて、「貧困と紛争」の代名詞として扱われました。もちろん、貧困や紛争は今も蔓延していますが、他方でアフリカは2000年代に入って平均約5パーセント前後の成長を実現しています。そのアフリカにおいて、中国は圧倒的な存在感を示すに至っています。対アフリカ貿易額において、輸出と輸入の両面で、中国は米国やフランスを凌いでいます。今回の訪問中、李克強首相はアフリカの記者団らに対して、中国-アフリカ関係が「黄金期」に入ったと強調したことは、故のないことではありません。中国による進出が目立つのは、貿易だけではありません。民間投資(フロー)でも米国に迫る勢いです。さらにヒトの移住においても、既に100万人の中国人がアフリカで居住しているといわれます。20年ほど前のアフリカでは、現地の人たちは我々のような東洋人をみかけると「コンニチハ」と言ってくれたものでしたが、最近では「ニーハオ」と声をかけてきます。
中国による猛烈なアフリカ進出は、いわば国家ぐるみのものです。その目的には、大きく以下の4点があげられます。(1)原油をはじめとする天然資源の調達、(2)中国製品の市場の確保、(3)移民先を確保することで、過密人口と過当競争を緩和すること、(4)「世界最大の開発途上国」としての国際的な発言力と立場の確保。今回の李首相の訪問でも、ビジネスの活発化のテコ入れはうかがえます。第一の訪問地であるエチオピアでは、李首相の滞在中、両政府の間で同国に4Gネットワークを張り巡らせる8,000万ドル相当のビッグプロジェクトに調印したと伝えられています。また、(2011年の事故を思い起こせば「大丈夫か」という気もしないではない)中国製の高速鉄道の売り込みも行っています。その一方で、5日にエチオピアの首都アディスアベバにある、アフリカ各国が加盟するAU(アフリカ連合)の本部(このビルも中国の援助で建設された)での演説では、李首相は中国-アフリカ間の貿易額を2020年までに倍増させるという目標を掲げました。さらに、電力や交通機関といったインフラ整備、貧困の削減、農業支援、人的交流などでの協力拡大を力説。経済関係にとどまらない関係の深化を強調しました。
アフリカにおける中国の急激なプレゼンスの拡大は、しかし一方で、主に欧米諸国からの懸念や批判を招いてきました。その主なポイントは大きく以下の6点があげられます。(1)大規模なインフラ整備は、無償援助ではなく、返済義務のある融資を前提とするため、欧米諸国は貧困国を相手にこれを行うことを控えてきたのだが、中国がこれを大規模に行うことで、アフリカ各国の債務が膨れ上がる危険性がある、(2)中国による開発協力はインフラ整備が中心だが、それらは中国企業が主となり、中国製資材を50パーセント以上使うことを義務づけるなど、中国自身の利益を念頭に置いたものである、(3)スーダンやジンバブエなど、人権状況に問題があるとして欧米諸国が制裁を課している国でも、これに関知せず、むしろ現地政府と良好な関係を築くことで、資源開発を進めている、(4)中国はアフリカとのWin-Winを強調するが、中国側の輸入の80パーセント以上は天然資源であり、特定の大資源国以外との関係は、中国側の大幅な出超になっている、(5)中国企業は中国人労働者をアフリカに連れてくるため、現地で雇用が生まれない、(6)中国企業は現地の法令に従わないことも稀でなく、これが環境破壊を促すことも珍しくない。国立公園のなかで原油採掘や木材の伐採をしていて、現地政府から制止されたケースも多く報告されている、などです。これらを踏まえて、例えば米国のクリントン前国務長官が、名指しこそ避けたものの、特定の国による、資源を持ち出す「新植民地主義」に警戒するようアフリカ諸国に呼びかけたこともあります。冒頭で述べたように、今回の李克強首相のアフリカ歴訪を欧米メディアは関心をもって伝えていますが、その背景にはアフリカで急速に台頭する中国への警戒があるのです。
これに対して、中国政府は自身による「植民地主義」を否定したうえで、以下のような反論を展開しています。(1)中国の国際協力は相手国との協議に基づくものであり、何ら押し付けていない、(2)中国は国家主権を尊重する立場から、欧米諸国のように人権保護などと援助を結びつけて相手国の内政に干渉していない、(3)中国は開発途上国であり、先進国のような無償援助を行う余裕はなく、自らの利益を追求することはむしろ当然であり、さらに(先進国が無償援助を行ってきた)アフリカが成長しなかったように、無償援助が常に相手のためになるとも考えない、(4)中国はOECD(経済協力開発機構)加盟の「先進国」ではなく、先進国の援助方針に合わせなければならない義務を負わない、などです。ただし、「雇用を生まない」、「法令を守らない」、「環境を破壊している」といった批判に対しては、正面から反論することはほとんどありません。しかし、2007年にアフリカを歴訪した胡錦濤国家主席(当時)は、各国でテレビなどを通じて中国企業経営者たちに現地の法令を順守するように呼びかけました。これは、あまりに中国企業による法令違反が数多く報告されたことを受けての対応だったといえるでしょう。さらに、中国政府主催で開催された2012年の第5回中国・アフリカ協力フォーラムでも、投資や貿易だけでなく、貧困削減や環境保護などでの協力を増やすことが謳われています。これもやはり、高まる中国批判への対応といえるでしょう。(つづく)
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