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2014-04-15 00:00
「静」の高村が存在感を発揮し始めた
杉浦 正章
政治評論家
世の中にはその人物が座っただけで座の雰囲気がすっと定まる風貌を持った人物が居る。中国で言えば「大人(たいじん)の風貌」だが、自民党副総裁・高村正彦がそうだ。過去20年間自民党の副総裁はあってなきが如き存在だったが、ここにきて高村の存在がクローズアップ、副総裁としての機能を発揮し始めた。集団的自衛権をめぐる自民党内の論議を、砂川判決をもちだして「限定容認」へと大きくかじを切った。衆院293人、参院114人の巨船のかじは容易には動かないが、とかく力でねじ伏せようとする幹事長・石破茂が「動」の対応なら、高村はバランス重視の「静」の構えだ。なぜか一言居士で鳴らす面々も高村の説得だと納得してしまう。古賀誠しかり、税調会長・野田毅も落ちた。
自民党副総裁と言ってもそんなに数は多くない。大野伴睦、川島正次郎、椎名悦三郎、船田中、西村英一、二階堂進、金丸信、小渕恵三、山崎拓、大島理森、高村正彦の11人だ。このうちの白眉は川島だろう。政局と政策の双方で力量を発揮した。政局の読みの深さは超一流で、総裁選でも池田勇人、佐藤栄作、田中角栄を支持して、長期に副総裁を続けた。政策面でもポイントを抑える能力に長けていた。発表された米公文書でも沖縄返還に大きな貢献をしたことが判明している。その後存在感を発揮したのは椎名、西村、金丸だが、小渕以降はあってなきが如き存在であった。そこに登場したのが高村だ。高村は先の総裁選で菅義偉、麻生太郎、甘利明とともに不利と見られた安倍を最初から推して、首相へと導いた。過去に味方であったかどうかで人物を峻別する癖のある安倍にしてみれば、極めて貴重な存在の一人だ。石破の独走への重石として高村の存在を重視して任命したのだろう。事実その役割を発揮しており、調整が必ずしも得意とは言えない石破を補って、党運営に資している。ポイントでの抑えも利いている。昨年、政調会長・高石早苗が村山談話批判に出て、安倍が苦境に立ちそうになっっときには、「総理が一生懸命に説明しようとしているのに、政府・与党の幹部が誤解を受けたり、利用されたりする発言をすることがあってはならない」とピシャリと黙らせた。
同じ事を発言しても説得力がある政治家と、かえって反発を食らう政治家が存在するが、高村と同じ事を石破が発言した場合、安保推進本部の初会合はけんけんがくがくの議論に発展しただろう。高村は砂川判決が必要最小限の自衛権行使を認めていると解釈、「『政府のいう必要最小限度の武力行使』には集団的自衛権の範囲に入るものもある。個別的自衛権はいいが、集団的自衛権はダメと、内閣法制局が十把一からげに言ってきたのは間違いだ」と安倍の立場を擁護した。この限定容認論に150人の出席者からは反対意見はなく、賛同する意見が圧倒的であった。実は高村はこの発言の前に予行演習をしている。自民党総務懇談会で同趣旨の発言をしたところ、総務の多くが「あれで決まりですね」と寄って来たというのである。こうして集団的自衛権問題は高村発言を軸に自民党内がまとまる方向となり、残るは公明党説得だ。公明党は徐々に雪解けの流れが生じており、高村は「具体的な事案を話し合えば、公明党が正しいということもあるかもしれない」と発言、自説にこだわらずに説得する構えを見せている。公明党との調整は個別的事例に基づき、集団的自衛権の行使か、個別的自衛権で済ませられるかの調整に入る。要するに公明のメンツをどこまで立てるかの調整であろう。
高村が会長をしている日中友好議員連盟は5月4〜6日に訪中するが、4月15日付の朝日新聞は、来日していた総書記・胡耀邦の息子・胡徳平が安倍と秘密裏に会談したと報じている。同紙によると安倍は中国との対話の関係構築に前向きの姿勢を伝えた可能性があるという。高村の訪中は、安倍と胡の会談を踏まえて、中国側の出方がどのようなものになるか注目され、極めて重要な意味を持つことになりそうだ。昨年5月の訪中は大物政治家との会談が設定されていないことから断念したが、今年は中国国家主席・習近平か首相・李克強が会談する可能性があるとされる。高村は言うまでもなく親中派である。日中双方とも振り上げた拳をどこに降ろすかという状況になりつつあり、ここで中国は高村訪中を活用しない手はない。習も李もいいかげんに妥協点を見出す努力をすべきだろう。高村の政局への対処能力はまだ未知数だが、安倍が長期政権を目指すに当たって不可欠の存在となりつつあるのだろう。佐藤内閣が7年8か月持ったのも調整能力に長けた川島の存在が大きい。当選11回72歳であり、もう総裁選に出ることもあるまい。調整役にはうってつけの存在だ。
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