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2014-04-10 00:00
(連載1)金融が世界の覇権を握る
中村 仁
元全国紙記者
黒田総裁が始めた日銀の異次元緩和から丸1年、経ちました。金融政策の歴史的変革です。評価する声、危うさを指摘する声に分断されています。わたしたちの生活にも直結する問題です。日本に限らず、主要国で金融政策、金融市場で激変がおきています。これを大局的に眺めると、経済、大きくいうと世界は、金融というかマネーが覇権(圧倒的な力)を握る時代に入ったと言えるのではないでしょうか。覇権論は国際政治の概念で、ヘゲモニーともいいます。強力な軍事力、政治力、外交力、経済力を背景に、ある1国が圧倒的な権力を持ち、世界で不動の地位を得る状態を指します。古くはローマ、近くはブリタニカ(イギリス)、アメリカが帝国として世界に君臨しました。そのアメリカの1極支配ともいわれた覇権が後退し、国際情勢が混迷にはまっています。
アメリカに代わる覇権国家は当分、出てこないでしょう。国単位で覇権を考える時代から、別の次元で覇権を考えなければならない時代に変わりつつあるような気がしてなりません。何が覇権を握りはじめているのか。それはマネー、金融です。世界はマネー覇権という怪獣に振り回されております。わたしは政治学者でも経済学者でもないので、ぜひ、専門家の方々がこの仮説を検証してみてください。経済のグローバリゼーションが進み、世界はマネー経済の時代に入っています。マネー経済の時代という言葉で片づけるほど、甘くはなく、巨大なマネーが覇権を握り、経済はおろか世界政治も動かす存在にのしあがったのです。
異次元緩和1年を迎え、新聞各社が載せた社説を見てみましょう。朝日新聞は「自縄自縛の危うさ」と題して、部分的に、経済・景気に好転した指標がみられるとしながらも、「追加緩和を求める市場の催促に迎合すべきではない。日銀が巨額の国債を抱え込み、放漫財政を助長する。金融政策を正常化する局面になっても、緩和の縮小(出口)に踏み出せなくなる」と、鋭く日銀に注文をつけています。毎日新聞は「中長期の視点を忘れるな」という見出しで「金融と財政が混然一体となったデフレ脱却政策は、財政破綻のリスクを膨らませる。アベノミクスは金融と財政の”上げ底ミックス”に過ぎない」と、これまた手厳しい指摘です。アメリカに続く日本の歴史的大実験に潜む恐ろしさに気がついているのでしょう。読売は日銀短観に関連した社説で「消費増税ショックをどう乗り越えるかだ。大胆な金融緩和、機動的な財政政策、成長戦略の効果を最大限に発揮すべきだ。デフレ脱却の道のりは険しい。追加金融緩和の必要性を検討すべきだ」としています。政府、日銀の主張に沿っており、当面する課題の克服に焦点をあわせており、異次元緩和が将来どういう意味を持つことになるのか、という重大な視点に関心を払っていません。
経済は人間の予想、想像を超えた動きをしますので、デフレ脱却に向けた異次元緩和が成功するのか、成功するとしても多大な副作用をともなうのか、副作用のほうが大きい、つまり失敗に終わるのか、分りません。はっきりしてきたのは、経済政策の主役であった財政の地位が後退し、金融政策が主役になり、財政も金融政策に服従するという変化です。比ゆ的にいうと、麻生副総理・財務相より、黒田総裁のほうが胸を張っており、安倍首相と並ぶ、いわば黒田皇帝という扱いですね。実体経済においても、主役の座がモノ作りから金融、マネーに交代したという変化です。国が金融危機に陥った際も、中央銀行が主導権を握りますね。国際政治の次元においても、国際金融、通貨会議のウエイトが格段に増しています。ウクライナ騒動でも、対ロシア制裁では、経済、それも金融関係の口座凍結に重点がおかれ、欧米による軍事力の行使などはまったく想定されていません。(つづく)
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