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2014-03-19 00:00
(連載2)プーチン大統領のクリミア侵攻目的
六鹿 茂夫
GFJ「日・黒海地域関係研究会」代表
ところが、周知のごとく、この闘争はプーチンおよびヤヌコーヴィッチ政権の惨憺たる敗北に終わった。2月21日、ヤヌコーヴィチ大統領と野党勢力は合意に達したが、マイダン革命の指導者達が翌日午前9時までに辞任するよう大統領に最後通牒を突きつけた。事態が緊迫するなか、ヤヌコーヴィッチ大統領および政府高官が職責を投げ出して逃亡したため、権力の空白状態が生まれ、それを埋めたのがウクライナ議会であった。同議会は、ヤヌコーヴィッチが自ら職務放棄をしたとして彼を解任し、5月25日の大統領選挙実施を決議し、2004年憲法の復活、新政権の樹立、ロシア語を公用語と定めた言語法の廃止などを決議した。これに対し、プーチン政権は、22日にハリコフで親露派集会を開いてキエフ政権に対抗するハリコフ政権の樹立をめざした。ところが、ヤヌコーヴィッチが同集会に現れなかったため計画が頓挫すると、ロシアは、大統領罷免の違憲性を根拠にヤヌコーヴィッチ元大統領の復権を要求するとともに、ロシア語を公用語とする言語法の復活や、親露派勢力を加えた新政権の樹立を求めた。しかし、2月27日にウクライナ議会と欧米諸国が承認した新政権には地域党や共産党が加わっておらず、親露的な政治勢力が排除されていたのである。
このようにして、プーチン大統領のマイダンにおける敗北が決定的となるや、彼はクリミアに場所を移して巻き返しに入るのである。プーチン大統領はロシア軍をクリミアに派遣して同地を制圧し、3月4日の記者会見において、クリミアをロシアに併合する意向を否定しつつ、他方では民族自決権の重要性を強調した。その2日後、クリミア議会は民族自決権を行使して同地のロシアへの帰属を議決し、3月16日の住民投票も同議決を承認した。この住民投票結果とロシア国民の世論を踏まえ、プーチン大統領は、3月18日にクレムリンで上下両院議員を前に演説し、クリミアのロシアへの編入を高らかに宣言したのである。クリミアのロシアへの編入を支持するロシア国民は79%に上り(クリミア住民投票前の世論調査結果)、プーチン大統領の国内支持率も上昇した。これによって、プーチン大統領はマイダン革命の敗者としての汚名を返上し、大多数のロシア国民の要望を叶えたロシアの偉大な大統領に返り咲いたのであり、プーチン大統領にクリミア侵攻を決意させた一つの国内目標は達成されたのである。
しかし、マイダン革命を抹殺して、ウクライナの政治状況を革命前の状態に戻す、あるいはそれに近づけるというもう一つの目標は未だ達成できていない。それ故、プーチン大統領は、今後クリミアのロシア連邦への帰属というカードを梃子に、「ファシスト政権」と批判し続けてきた政府の刷新と新憲法の採択を迫っていくであろう。前者では親露派勢力を含む新政権の樹立、後者では連邦制の導入が主要な柱となる。これら2つの目標が達成されれば、ロシアのウクライナに対する影響力は、ウクライナ政府、東部、南部に存在する親露派政治エリートを介して、また東部・南部の分離主義運動を梃子にして飛躍的に増大し、ひいてはウクライナのロシア勢力圏入りなどロシアの地政学的・戦略的目標を達成することが可能となる。
しかし、クリミアのロシア連邦への編入宣言によって、ウクライナや欧米がこれらの点で妥協する可能性が低下したことから、筆者が3月11日のエッセーで記した第4の最も危険なシナリオへと向かう蓋然性が高まった。クリミアに次ぐさらなるウクライナ分割である。広域ヨーロッパには、旧ソ連の所謂「凍結された紛争」地域以外にもディアスポラ問題が至る所に存在しており、急進派勢力は既に「クリミアに倣え」と士気を高めている。冷戦後の欧州国際秩序は、今まさに国境変更の連鎖という深刻な危機に直面しているのである。(おわり)
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