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2014-03-11 00:00
(連載3)ロシアのウクライナ戦略と将来のシナリオ
六鹿 茂夫
GFJ「日・黒海地域関係研究会」代表
ロシアは他国に対する武力行使、国家主権の侵害、武力による領土変更の試みなど、数々の国際法違反をしてきた。したがって、ウクライナ政府および国際社会が、第一の原状回復を主張するのは当然である。しかし、ロシアがクリミア半島を軍事力で制圧している現状に鑑みれば、グルジアの先例に則った第三のシナリオの実現性が高い。その場合、クリミアが独立「国家」にとどまれば、それはアブハジア、南オセチア、トランスニストリアと同じくクリミアの未承認国家化であり、ロシアへ帰属すればカリーニングラード化となる。前者の場合、グルジアの前例が示すように、プーチン政権はクリミアを梃子にウクライナ政府に揺さぶりを掛けることができ、双方いずれの場合も、黒海、ボスポラス・ダーダネルス海峡を経て地中海へと至る戦略的要衝を掌握できる。近年、ロシアはシリアやアルジェリアの軍港を基点に地中海へと勢力を伸ばすとともに、東地中海ガス田開発に乗り出しており、第三のシナリオはプーチン政権にとっていかにも魅力的である。
しかし、このシナリオは諸々のコストを伴うため、プーチン政権がコザック・メモランダム構想に則って、第二のシナリオに向けて妥協点を探る可能性も残されている。ウクライナが連邦国家になれば、上述した如く、ロシアのウクライナに対する影響力は飛躍的に増大し、同国のEUやNATOへの接近を阻止することが容易になる。他方、ウクライナ政府は、これと同じ理由で、同シナリオには同意しがたいであろうが、連邦と共和国の権限関係が殊の外重要であることを想起すれば、交渉の余地は残されている。また、ロシアとの関係正常化や同地域の安定を望む欧米諸大国は、ウクライナの領土保全が維持されるばかりか、ウクライナ国内の東西対立の緩和に寄与するとの観点から、同シナリオをロシアとの妥協点としたいところであろう。
しかし、第三のシナリオから第四の最悪のシナリオへと突き進む可能性も否定できない。クリミアの住民投票結果がウクライナ東部の親ロシア勢力を刺激し、同地の独立運動に火がつきかねないからである。既に東部地域では、行政権の掌握をめぐって、キエフの中央政府と親ロシア系政治勢力の間で激しいつばぜり合いが起きており、ロシア治安部隊も投入されたとの情報もある。ここで、クリミアが未承認国家にとどまるか、ロシアに帰属するかが鍵となる。後者の場合、クリミアに次いでウクライナ東部がロシアに編入される可能性が高くなり、そうなれば黒海地域の地政学はわずか2~3か月で一変することになる。ベルリンの壁崩壊後、サッチャー首相やミッテラン大統領が深く憂慮した、急速な地政学的変動と国境変更がもたらす武力紛争の連鎖の始まりが、今まさにクリミアで起ころうとしているのである。
西欧とロシアの「狭間の地政学」に位置するバルト海から黒海に至る地域では、諸大国が長年にわたり権力闘争を繰り返し、複雑な国際政治が展開されてきた。したがって、ウクライナ問題は欧州国際秩序全体の文脈において論じられてしかるべきであるが、この課題については別稿で検討するとして、最後に日本の取るべき道について言及して稿を閉じたい。およそ、主権国家に対する軍事介入と武力を用いた国境変更の試みは明らかに国際法違反であり、冷戦後の国際秩序に対する重大な挑戦である。安倍政権には、この事の重大性を踏まえ、「地球儀を俯瞰」しつつ長期的視野に立って、「積極的平和外交」と「価値外交」を国際社会と共に展開していってもらいたい。ここで目先の利益に惑わされれば、日本がこれまで培ってきた「中央アジア+日本」「GUAM+日本」「V4+日本」など地道な外交努力が水泡に帰すばかりか、国際社会における日本の信憑性が損なわれかねない。また、この危機的な国際環境における日本政府の政策決定が、今後の日本外交を拘束することは必至であり、政策決定に際しては、日本がアジア太平洋で抱える外交安全保障問題を念頭に置いて行うべきことは言うまでもない。(おわり)
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