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2006-11-13 00:00
インテリジェンスの強化に必要なこと
村上正泰
日本国際フォーラム主任研究員
安倍総理は9月29日の所信表明演説において、「外交と安全保障の国家戦略を、政治の強力なリーダーシップにより、迅速に決定できるよう、官邸における司令塔機能を再編、強化するとともに、情報収集機能の向上を図ります」と述べた。これは、米国のNSCやCIAに範をとった新組織の創設を目指すものと言われている。情報力とそれに立脚した国家戦略は、国家の生存を左右する大きな支柱である。長年にわたりこの重要性が軽視されてきた我が国において、インテリジェンスの強化が進められることは、遅ればせながら大変歓迎すべきものである。
しかしながら、単に新しい組織を作ればいいというものではないことにも留意しておく必要がある。まず指摘しておきたいのは、いくら重要情報を収集したとしても、それを必要なところに伝達し、適切な対応がとられなければ、意味がないということである。例えば、今回の北朝鮮の核実験の情報は、午前10時30分頃に中国政府から北京の日本大使館に伝えられ、その後、北京から外務省本省に連絡が入り、10時40分頃には官邸にも連絡されたが、内閣官房から防衛庁に第一報がもたらされたのは11時20分になってからのことであった。このような空白の時間が生まれるのは何ともお粗末であるが、この一件を通じて、役所の縦割りの壁がもたらす弊害とともに、情報に対する鋭敏な感覚と情報を取り扱うノウハウの欠如という現場の実態が見てとれる。
また、さまざまな内容の情報がもたらされた時に、それらを深く分析する眼も養っておかなければならない。岡崎久彦大使と故佐藤誠三郎教授の対談『日本の失敗と成功』においては、戦前における情勢判断の失敗例として、スウェーデン駐在の小野寺信武官が「ドイツの英本土上陸はなく、独ソ戦が近い」と報告し続けていたにもかかわらず、陸軍参謀本部は、ドイツの政策判断はベルリンが行うという縄張り根性を尊重し、ドイツの勝利を信じ続けたことが紹介されている。これこそ今日にも通じるセクショナリズムの弊害を象徴する話であるが、同時に情報を読み解く深い判断力にも欠けていたのである。こうした能力は、長年にわたる経験の積み重ねとともに、歴史に対する洞察や深い教養のなかで培われてくるものである。
いずれにしても、インテリジェンスの強化は必要であり、是非進めていかなければならないが、単に目新しい組織を作るだけで済む話ではなく、インテリジェンスを担うことのできる「人」の育成が不可欠なのである。
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