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2014-01-09 00:00
中韓の反靖国「対日包囲網」形成は失敗
杉浦 正章
政治評論家
長年外交・安保をウオッチしていると、わずかな兆候から事態が大きく発展するケースが多い事が分かる。首相・安倍晋三の“ちゃぶ台返し”とも言える靖国参拝に対する動きをみれば、中国外相・王毅による対日包囲網は失速し、外交を女の感情で展開する韓国大統領・朴槿恵は新年早々なにやらしおらしい。極東の安全保障環境は依然史上まれに見る厳しさにあり、一触即発の危機が継続しているが、米国の対日同盟重視の方針には変化の兆しはない。中韓両国の「反日接近」は継続しそうだが、日本外交にとっては、米国の戦略を“活用”してこれにいかにくさびを打ち込むか、が今年の焦点だ。まず何をするか分からないのが北朝鮮の金正恩だ。叔父殺しの血刀を提げて、今度は恐怖政治の矛先を海外に向けかねない。1~3月中に核実験、ミサイル打ち上げ、韓国攻撃のいずれかの動きに出るという憶測が絶えないのだ。一方、防空識別圏を一方的に設定した中国は、繰り返される暴動・テロ行為がまるで“内乱”の様相を示しており、苦し紛れに習近平が“対日カード”を切りかねない事態に変化はない。尖閣をめぐって偶発的軍事衝突の危機は続く。極東冷戦は今年も最高潮に達する要素があると見ておいた方がよい。
こうした中での安倍の靖国参拝が、国家の安全保障を危機に陥れる側面を有していることは否めない。安倍は「どこの国のリーダーでも、戦争で命を捧げた英霊に尊崇のの念を表明する」と持論を繰り返すが、参拝する靖国神社の英訳が「War Shrine(戦争神社) Yasukuni」の表現になっていることを知らなければなるまい。この書き出しを使われては、「戦争賛美」と受け止められ、最初から勝負に負けてしまうことになるからだ。米国をはじめとする主要国大使館を通じて報道各社にこの表現の訂正を求めることから始めなければ、説得は不可能だ。加えて現段階での靖国参拝は安倍が自ら唱える「戦後レジュームからの脱却」と矛盾する。むしろ戦後レジュームを拡大強化する効果しかない。なぜなら中国に「戦勝国の結束」の口実を与えるからである。王毅が狙うのは、まさにこの一点に尽きるし、現実にもこの線でのプロパガンダを展開している。ロシア外相・セルゲイ・ラブロフはこれに完全同調している。また中韓接近をより強める効果をもたらす。習近平は年内に訪韓する可能性が強いとみられており、中韓蜜月を誇示するだろう。
このように靖国参拝の影響は中韓を刺激し、外交の閉塞状況をいよいよ深める結果を招いた。しかし、参拝ははからずも、そのマイナス効果がどの程度のものかという「状況偵察」の役目を果たした。丸橋忠弥のように江戸城の堀の深さを測れるのである。まず米国は声明で「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに、米国政府は失望している」と異例の反応をした。しかし声明後半の下りでは「米国は、首相の過去への反省と日本の平和への決意を再確認する表現に注目する」と書き加えている。これは安倍の「不戦の誓い」が一定の理解を得たことを意味する。米国にしてみれば「馬鹿なことをしてくれたが、これ以上はやめてくれ」と言うところが本音だろう。なぜなら昨年10月の国務長官ケリーと国防長官ヘーゲルの訪日による日米同盟再構築・強化の路線は、米国の極東戦略から見て変えようがないからだ。しかし小泉の参拝では、出てこなかった「失望している」の表現はきつい。これは中韓両国による対米ロビー工作が過去8年間にいかに進展しているかを物語っている。
防衛費に金を使うのもよいが、大使館が使う対外工作費などは防衛予算に比べれば微々たるものだ。もっとジャブジャブ回さなければ、ロビー工作は中韓に対抗出来ないことを安倍は知るべきだ。日米関係にとって普天間基地の辺野古移転実現は、近年にない快挙であり、臆せずに対米宣伝をしてもよい。米国は極東戦略の中核基地を獲得することになるからだ。この米国の極東戦略を“活用”して日本がやらねばならないことは、中韓接近へのくさびの打ち込みであろう。それにつけても外相・岸田文雄に臨機応変の動きが見られない。ミスキャストであったことが露呈している。朴は、いくら経済上の利害得失があっても、対中接近の度が過ぎる。中国は朝鮮戦争での敵国であり、北が再び戦端を開けば、中国は北を見捨てることはまずあるまい。その際頼りになるのは、米韓同盟に加えて日米同盟にほかならない。朴の先見性はここに目が行かないレベルなのである。現在のまま習近平に媚びを売り続ければ、韓国の安全保障に重大な危機を招くことを朴は知らなければならない。一方で朴の“変化”の兆しも見られなくはない。
年頭記者会見で「私は今まで韓日首脳会談をしないと言ったことはない」「事前の十分な準備の下で推進されなければいけない」などと述べているのだ。恐らく国内世論に朴の反日一辺倒路線への批判が頭をもたげ始めていることを意識しているに違いない。一方王毅による靖国参拝批判の対日包囲網形成は失敗に終わった。電話をあちこちかけまくったが、ラブロフと韓国外相の尹炳世(ユンビョンセ)だけの同調では想定内だ。ロシアとの関係は安倍と大統領・プーチンの個人的関係でリカバー可能だ。東南アジア諸国連合(ASEAN)各国は、一部マスコミは別として首脳による反発の声は出ていない。肝心の中国も日本で言えば次官クラスの外相の動きが目立つだけで、習近平はもとより閣僚級の国務委員クラスからは何らの反応も漏れてこない。学生などの反日デモも抑えられている。デモを勢いづければ、矛先が腐敗著しい共産党独裁政権に向かいかねないから抑えているのであろうが、この流れは注目に値する。このように安倍の靖国参拝は辛うじてその反発を中韓両国に封じ込めることに成功しつつあるが、どうみても1回で打ち止めにすべきである事は言うまでもない。
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