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2006-11-03 00:00
マス・メディアへの重ねてのお願い
湯下 博之
杏林大学客員教授・元大使
政策掲示板「議論百出」の2006年9月8日付け投稿の中で、私は「マス・メディアへの一つのお願い」と題して、外国の要人の訪日に際して、国の大小を問わず、国民の目に触れる大きさで報道していただきたい、併せて、その国の紹介や、日本とその国との関係についても解説していただければありがたい、そういうことが積み重ねられれば、日本国民の目が広く外に向けられ、外国との相互理解も進むであろう、そのことは、国際社会で生きていく上での日本にとって重要なことである、ということを書いた。
実は、その後、10月18日から、ベトナムの首相が夫人同伴で日本を公式訪問した。ベトナムでは、日本と同様、新内閣が成立し、新首相が最初の外国訪問先にどの国を選ぶかが注目されていたが、日本を選び、訪問は成功裏に終了した。ベトナムは東南アジアの主要国であり、日本とベトナムは相互にとって大切な国である。また、11月にはベトナムの首都ハノイでAPEC(アジア太平洋経済協力)の首脳会議が開催され、安倍総理がベトナムを訪問される。ベトナムの新聞は、新首相の訪日を写真入りで第一面で大きく報じた。ところが、日本では、ベトナム新首相の訪日は殆んど報ぜられずに終わってしまった。したがって、日本国民の多くは、訪日があったことすら気がつかなかったのではないかと懸念される。このことは、何とも残念なことである。アジアにおける日本の進路が種々議論されているが、日本に直接関係のあることですら、アジアについての情報が限られ、国民の目がアジアの現実に向けられないということでは、地に足のついた議論は期待できないと言わざるを得ない。
似たようなことは、外国についてのテレビの報道についても見られる。例えば、20数年前のことであるが、私がタイに在勤していた時、日本からテレビの取材チームが見えることがあったが、そのテーマは、当時のニュースであったカンボジア難民キャンプか、バンコックのスラム街か、麻薬の産地で「黄金の三角地帯」の名で知られた、ラオス、ミャンマーと国境を接する北部タイの山岳地帯に関するもの等であった。タイの文化とか風俗習慣、更には学生生活その他標準的なタイの姿や国柄を日本の視聴者に伝えるものではなかった。そこで、私は、取材チームの代表者に「番組作成がビジネスとして行われるものである以上、簡単ではないことは理解できるが、例えば3本に1本位は、きわものでない、タイの姿を日本の茶の間に伝えていただきたい」という希望を述べたりしたが、効果はなかった。次いで、1991年から1994年まで私がベトナムで大使をしていた間に、テレビの支局開設式にテレビ会社の幹部が見えた時に、同様の希望を述べたが、これもどの程度分かっていただけたか定かでない。
しかしながら、このことは、国と国の間の相互理解を進め、ビジネスを円滑に進める基礎をしっかりしたものにする上でも、かなり大切なことであると思われる。例えば、多くの日本人は、米国の家屋がどのようなものであるとか、家の中がどのような感じであるとか、大学のキャンパスがどのようなものであるかといったことを、或る程度知っているといってよいであろう。しかし、それだけ多くの日本人が米国に行ったことがあり、米国の家庭や大学をのぞいたことがあるのかというと、そうではない。では、何故、多くの日本人が米国のそういう事柄について或る程度の知識を持っているのかというと、多くの場合、映画やテレビを中心とする映像を通して、何度も米国の普通の姿に接しているからであろう。もしも、アジア諸国についても、家庭や学校やオフィス、更にはその背景にある文化や歴史や風俗習慣が、気軽に日本の茶の間で見ることができるようになれば、多勢の日本のアジア理解が大幅に増進されると思う。私は、映画についても或る経験をしたので、次回に取り上げてみたい。
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